ヴァイオリン弾きの幸せ-2
徐々に、嵐は過ぎ去りつつあった。
次第に静かになっていく部屋の中、アンジェラのかすかな寝息がたちはじめる。
布団を直してやり、ヴァイオリン弾きは部屋を出た。
静まり返った礼拝堂の中。
赤毛の悪魔はヴァイオリンで滑らかな夜想曲を奏ではじめる。
音色は祭壇に祭られた虚像の十字架を通り過ぎ、奥の部屋で眠る少女へ、幸せな夢を届けに泳いでいく。
アンジェラは、自分でチャンスをぶち壊してしまった。
あんな事を口にしなければ、彼女は将来、赤毛の悪魔をほんの少しの間でも幸せにできたのに。
餌となって貪り食われる瞬間に、それを実感できただろう。
かといって逃がす気もないが、この先アンジェラの魂が闇に堕ちて、それを食べれたと想像しても、前ほど心は浮き立たない。
「――アンジェラ、おとうさまを幸せにしたいなら……」
弦を止め、独り言を呟いた。
可愛い天使候補。
いずれ自分が、悪魔に飼いならされた堕天使だと知る運命の少女に、その先を胸中で願う。
――おとうさまから、逃げ切っておくれ。可愛いアンジェラ。
終