ビターチョコ-1
「ねぇ〜アミは誰に渡すの〜?」
「え〜教えないよ〜。ユリこそ誰よ〜?」
なぁんて、明日がもうバレンタインだもんで、クラス中の女子が騒いでいる。
バレンタイン…女の子には嬉し恥ずかしなイベントかも知んないけど…モテない男にとっちゃ、惨めで虚しくなるだけ…。
こんなイベントを考えた日本企業を、俺は恨むよ…。
俺、斎藤武浩17歳!青春真っただ中の高校二年生!なのに、彼女は募集中の寂しいヤツ。
「はぁ〜あ…」
今もこうして机に突っ伏して、寝たフリしながら女子の会話に聞き耳立ててるし…。
暫くして、本当の睡魔が襲ってくると、アイツの俺を呼ぶ声がした。
「おい、タケ!お前もコレ動かすの手伝ってくれ!」またかよって思いながら、後ろを振り向く。
和也が、ニコニコしながら女子と一緒に手招きをしていた。
「高橋さんのペンが、この掃除箱の隙間に入っちゃったんだってさ。」
やっぱりな…。
チョコを貰うための点数稼ぎ。やってられるか!
って思いながらも動かすのを手伝う。
…我ながら情けね〜…。
「はい、取れたよ〜。」
「ありがと〜。」
そう思うなら、チョコちょーだい。とは、さすがに言えません。
「やったな!タケ。これで高橋さんから貰えるな!」してやったりみたいな顔して喋るなよ。
「あのね〜和也くん。去年もこんなことをしてたけど…結局一つも貰えなかったじゃん!?」
「去年は、だろ?今年は貰えるって!」
どっから湧くのその自信。小中高と一緒だけど、コイツのこの前向きさには、いつも感心してしまう…。
「んじゃ、次の困ってる子を探そっと。」
もう、ホント勝手にやってくれ……。
「〜〜〜って事だから、各自よく考えておくように。では、解散!」
やっと終わった!
やっと解放される!
あれから和也に何度も呼び出されたから、もうヘトヘト…。また呼ばれない内に、さっさと帰ろう…。
「お〜い!タケ〜!」
はい、アウト〜!
もういーや。もう諦めた。ホント…俺ってお人好し。
「今度はなんですかー?」今日はもう、アイツに付き合ってやろうと、決心しましたよ…。
「いや、用があるのは俺じゃなくて…」
和也が視線を横へ流す。
…って、ん?隣には真理が立っていた。
「あのね…その…あの…」何かを伝えたいんだろうけど、話が進まない。
「真理ちゃんがさ」
すかさず、和也が助け船を出したか。
「バレンタインチョコを挙げたい人がいんだって。
で、そのチョコを選ぶのを手伝って欲しいんだとさ。俺も手伝ってやりたいんだけど…ちょっと他に野暮用があってさ。だから、タケ!お前手伝ってやれよ!なっ!?」
また、和也がチラッと真理に視線を送る。
「…あっ!そう!そうなの。他に頼める人がいなくて…。タケちゃんお願い!…ダメ?…」
真理が手を合わせてお願いって…。和也はやっぱりニコニコしてるし…。
「しゃーないな〜。分かったよ」
「ホントか!?さっすがタケ。良かったな真理ちゃん!」
「う…うん」
あれ、反応薄くない?
「と、とりあえず、じゃあさっそく選び行け!ほらほら!」
夕日に染まるアスファルトの上に、長い影が二つ並んでいる。
学校を出た俺達は、近くのショッピングモールへと向かっていた。
「なぁ、それってやっぱ…本命チョコだよな?」
ついに聞いてしまった…。どうしてもそれが、気になっていたから…。
「……う…うん」
俺の問い掛けに、真理は顔を紅くして、俯いたまま返事をした。
ショックだった…。
思いっきり殴られたような衝撃…。マジ…へこむ…。
正直な話、隣に並んでいるこの白川真理に、俺は密かな恋心を抱いていた。
中学の時、彼女が同じクラスに転入してきて、生まれて初めての一目惚れってヤツ。
まぁそれから色々あって、俺と和也と真理はいつも一緒にいたんだけど、高校に上がって別のクラスになってからは、昔のように一緒に行動することはなくなった。
それでも、たまに校内で逢った時に「タケちゃん」と昔のように呼んでくれることが、俺にはたまらなく嬉しかったんだ。だけど…。
「上手くいくと…いいな」
「うん……」
もう、昔のようには戻れない…。
もう……俺の恋は叶わない……。
「俺にも…俺にもチョコくれ!」
あ、つい本音が。
「えっ!?」
やべ、どうしよう…そだ!
「いや、だってなぁ、アドバイス料貰わなきゃ!せっかくだし。もちろん、安いやつでいいからさ!?」
ナイス機転だ、俺!
「あ、そっか、そうだよね…」
ふぅ〜、焦った。
何とかなった。
…でも、あれ?
落ち着いたはずなのに…、心臓がうるさい。
…なんでだ?