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ビターチョコ
【青春 恋愛小説】

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ビターチョコ-2

 「わぁ〜!すごーい!!おいしそ〜〜」
ショッピングモール内のケーキ売場の一角で、段に並ぶチョコに真理の眼は釘付け。
キラキラと光る瞳とコロコロと変わる笑顔に、俺の眼は釘付け。
可愛すぎる…。
胸の奥がかなり苦しい…。

そして、相変わらず心臓がうるさい。
いや、さっきより大音量だ。


「コレが今、一番人気が高いんですよ。そちらの彼氏さんのプレゼントにどうですか?」
だから、なんで俺の心臓はこんなに…って、うぇ!!彼…氏!?
「あ、違います!彼氏じゃないです!!」

って、え〜!!そんなに強く否定!?いや、そうなんだけど…。
でも、落ち込む…。

「そうですか、それは失礼を。ではごゆっくりと…」店員はそう言い放つと、ばつが悪そうに去った。
その代わりに真理が近付いて来て、
「ゴメンネ、タケちゃん。嫌だったでしょ?」

それは彼氏に間違えられたことが?そんなことはないけど……。

「いや、え、あはは」

何て言ったらいいのか分からず、とりあえず笑って誤魔化した。

でも、心臓がうるさい理由が解った。
傍から見れば、俺は彼氏で真理が彼女。だから俺らは恋人で、これはいわゆる一つの『デート』!!
そう、俺は人生初のデートをしているんだ!

頭ん中では、天使の歌声と教会の鐘が鳴り響く。

けど…思いっきり否定されたんだよな〜…。
「はぁ〜あ…」

テンションが上がったり下がったり、忙しい。



「でもさぁ…」

チョコの試食をしていると、箱を持って見比べている真理が呟いた。

「やっぱり本命は、手作りのほうがいいのかなぁ…?」
手作りか〜…。手作りっていいよなぁ〜…。
「そーだよな!俺はどんな高級なチョコよりも、一生懸命ガンバって作った手作りのほうが、愛情が詰まっているからいいなぁ!味や見た目じゃないと思う!」

…はっ!何言ってんだ俺!?後先何も考えずに言ってしまったーー!!
手作りって言葉に、思考がスリップしてた!
真理は…あぁ〜やっぱり困惑してる。
「ごめん。俺の考えとか聞いてないよね!?」

「…うん!」
…やっぱり。
「分かった!」
…へ?
「私、ガンバって作る!手作りチョコにする!」

あれ、アドバイスになってたの?





女の子の買い物は長い、というのは本当だった。
結局、閉店間際まで真理が材料を悩んだため、ショッピングモールを出る頃は、辺りがすっかり暗闇となっていた。

街灯だけが頼りの道を、二人で並んで歩く。
クタクタだけど、やっぱり嬉しい。


お互い疲れもあるせいか、何も言葉は交わさないけれど、不思議と気まずさはなく、逆になんだか懐かしいような……。

スローモーションのようにゆっくりと時が流れてく…。
二人を包む空気が、オブラートのようにやさしい…。

遠いようで近いような…。

永いようで短いような…。

「俺、本気で真理が好きだから…成功することを祈るよ…」

聞こえないほどの小さな声で呟いた。

これが今の素直なキモチ。

それでも時間は進むから…。
それでも二人は歩むから…。
気付けばもう、君の家…。


「それじゃあ……今日はありがとう…」

「いえいえ。そんかわり、お礼はヨロシクな!」
冗談を言いながら、荷物を手渡す。

「明日…頑張れよ!!じゃあ……」
すぐに振り返り、上を向いて歩き出す。

悔しさでも、寂しさでも、切なさでもない…。

何か大切なモノを失くしてしまったような……。
だから失恋って言うんだって、やっとわかった…。

立ち止まれば溢れそう…。
俯けば零れそう…。

だから、必死に堪えて夜空を見上げる…。

それでも、星が滲んでぼやける……。

けど…いつもより……
綺麗に見えた…。



 「はい!コレ…」
「オレに!?ありがとう!!すっげぇうれしい!」

ぬぁにが「はいコレ」じゃあ!!
こっちは昨日失恋したっちゅーのに!


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