強請る兎-1
「リクオ君、お茶汲んでくれるかなァ?」
俺はそう命じられるのが当たり前のように席を立ち、ヨウコの茶碗にお茶を淹れてやる。
縄文式土器のような不思議な形をした茶碗は、ヨウコの自作のものだ。
彼女の創作物に対する独特のセンスは俺には理解しかねるのだが、絵画といい茶碗といい、何故か評価が高い。絵画に至っては、美大からスカウトが来るレベルだ。
一見飲みにくそうな茶碗をヨウコは自分の口元に運び、茶を飲んで言った。
「今日もツキコちゃん休みだったわねェ……風邪で三日休むって余程こじらせたのかしら?」
いつもの生徒会室でヨウコと二人。
ツキコは、メールを送ったあの日から学校を休んでいた。今日で三日目だ。
ツキコは実際あまり体が丈夫そうには見えないが、理由は漠然と風邪ではないという気がしていた。
休む理由は、もしや俺にあるのではないか。
あのメールをもらった翌日、ツキコとどんな顔をして会えばいいのかと俺も考えていたのだが、彼女は学校を休んだのだ。
きっと、俺と同じようなことを考えて、ツキコは学校に行かない選択をしたのでは。
真面目で、プライドの高そうな彼女のやりそうなことだと思った。
「本当に風邪なのかしらねェ……リクオ君は、何か聞いてないのォ?」
「さぁ、俺にもなんとも……」
「冷たいわねェ、幼なじみなんでしょう? もしかして、リクオ君が何かしたとか?」
「そ、そんな事、ありませんよ!」
「ふぅん……でも、ケータイも通じないのよねェ。電源が入ってないとかでさァ」
ヨウコはピカピカのチーク材の机に肘をついて、どうしたものかと思案顔だ。
その人懐こい大きな瞳が、俺の方を少々疑わしげに見つめている。
ツキコちゃんが来ないのは、やはり君が関係しているんじゃないの?
そう俺を問い詰めているような気がするのは、俺の考えすぎなのだろうか。