強請る兎-2
実は昨日、俺もツキコに電話はしてみたが、彼女が電話に出ることは無かった。
その後に再度電話すると、ヨウコの言うように電源を切った状態になっていたのだ。
メールも送ったが、応答は無い。
そういう状況なので、直接家に行くというのも気が引けた。
「そんじゃあ、今日は二人でツキコちゃん家にお見舞いにでも行ってみる?」
「え!? あ、いや、それは止めたほうがいいかも……」
「なんで? リクオ君は、行ったことあるんでしょう?」
「もうずっと昔の話ですよ。それに会長は、家遠いですし……」
「あたしは別に、少しくらい帰りが遅れたって構わないわ。ツキコちゃん心配だしィ」
「……分かりました。じゃあ、明日俺が見舞いに行きますよ。休みですし」
「リクオ君が一人でェ? ふ〜ん、なんか怪しいなァ?」
ヨウコと見舞いに行くというのは、なんとなくマズい気がした。
ツキコは多少気まずい思いをしているだろうし、その原因の俺が家を訪ねて、ヨウコに微妙な空気を察知されるのが恐ろしい。
ヨウコは普段ぼんやりしているようで、ここぞと言う時は鋭い感性を発揮する。
それにヨウコと俺は既に肉体関係があるので、彼女とともにツキコの家に行くのは、俺の気が引けた。
俺はツキコの気持ちを知っている。
だから、その気持ちを思い切り裏切る行為ではないかという思いがあったのだ。
俺は本来小心者だ。
二人の女を行ったり来たりするような性格ではないはずなのだが、何故こうなったのだろうか。
いずれにせよ、ツキコとは俺が単独で会うべきだと思った。
そんな複雑な思いを抱える俺を、ヨウコが何を考えているのかわからないような微笑みを浮かべて見つめた。
「まァ、リクオ君がそこまで言うなら任せようかな。でも、ツキコちゃんに変なことしたら駄目よォ?」
「そんなこと、しませんよ。親御さんもいるでしょうし、顔見てくるだけですよ」
「ああ、知ってる? ツキコちゃんのお父さんて警察のお偉いさんなんだって」
「え? あ、いや、別に悪いこと、してませんし……相手が誰でも、関係、ありませんよ」
「フフ、なんか微妙に動揺してない? あたしもリクオ君に悪いことされたら、相談しに行こうかなァ?」
ヨウコは不穏なことを口にしながら、ふわりと席を立つ。
そして、そのまま俺の席の真後ろに回りこんで、そのまま背後から軽く抱きついた。