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addict
【学園物 官能小説】

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addict-2

教室の前を通り過ぎて行ってしまった、大宮 聡。
3年2組5番。風紀委員長。
補足、全国模試第1位、医者の息子。

少し開いた廊下の窓から風が吹き、和子の肩ほどの漆黒の髪が揺れた。

胸が震える。

和子の、親友の凛にも言っていない秘密とは、

随分前から大宮聡に、恋をしているということだった。

凜にさえも教えないのは、言ったところで意味がないから。なぜなら、“彼”は―
あまりにも遠くかけ離れた存在。和子にとって大宮 聡は決して手の届かない雲の上の人だ。
今まで凜に幾度か恋愛の相談をしたことがあるが、この様な叶うわけない想いを相談されたって、凜もアドバイスの仕様がないだろう。だから、話すだけ無駄なことだ、何の意味もない、と和子は考えている。
叶うことがない恋だからこそ、自分の胸に秘めておく。


キーンコーンカーンコーン‥‥

着席のベルが鳴り、廊下の女子は散り散りに教室へ戻って行った。和子と凜も席に着いた。
担任が急ぎ足で教室へ入って来て、朝のホームルームが始まる。五十音順に次々と生徒の名が呼ばれていくなか、和子は物思いに耽っていた。
先ほど見つめていた大宮 聡のことである。
今朝もいつもの様に温和な表情を浮かべ、涼やかな空気をまとっていた。
あの時、ほんの刹那だが、大宮 聡とちらりと目が合った様に思った。自分を見た様に思った。気のせいだろうか。
―いや、確かにひと時、大宮 聡と視線が交錯した。
フレームのない眼鏡の奥に光る、優しげで怜悧な、思い出すだけでぞくっとする眼だった。
和子はハァ、と小さく溜め息を漏らす。
彼女は物憂げに窓の方を見、今日もまた、叶わぬ恋に心を焦がすのだった。

ようやく午前の授業が終わり、凜と屋上へ行き、お弁当を食べていた時のことだった。
今日は日差しが暖かく、すっきりと晴れているので屋上には生徒がいつもより多く見られた。
そよそよと吹く風を心地良く感じながら、ふたりはいつものごとく、話に花を咲かせる。

「あ、そういえばさ」
凜が唐突に言い、ふと食べる手を止めた。
「なに?」
次の言葉を聞き、和子の心臓が大きく脈打った。

「今日、風紀委員会あるんだったよね」
ドクンッ―
和子は口の前に卵焼きを持っていったまま、固まった。
「………うそ!」
「『うそ』って。朝先生言ってたじゃん。聞いてなかったのー?」
凜がくすくす笑う。
「聞いてない!やだ、本当?」
「本当。和子いつも割と先生の話聞いてるのに、珍しいよね」
凜の言う通り、いつもならしっかり先生の話を聞いている。でも、今朝は―
久しぶりに大宮 聡を拝めたことで頭がいっぱいになり、担任の話などちっとも耳に入らなかったのだ。

なぜ、この様に和子が驚くかと言うと、彼女は風紀委員なのである。そう、委員長はあの大宮 聡だ。和子と聡の、唯一の接点がこの委員会である。彼女の1番楽しみにしているものでもある。
大宮 聡の姿を余すことなく見ることはもちろん、もしかしたら話すことも出来るかもしれない、夢のような場だった。

「今日、先に帰ってればいい?」
凜が問う。
「うん、ごめんね」
和子はようやく卵焼きを口の中に運んだ。

秋空を見上げて、降り注ぐ陽光に目を細めながら、和子は放課後が待ち遠しいと思った。


「じゃ、委員会頑張ってねっ」
「うん、バイバイ」
凛の背中を見送ると、和子は教室を出て、3年2組へ向かった。
にやけてしまいそうなのを抑えながら歩く。


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