『graduation〜ボーダー〜』-1
私は今日、卒業する。
何から。
いや、大学からなんだけれども。
何かもっと違うモノからの卒業な気がしていた。
単刀直入に言えば「ある男」そしてその「男との関係」からの卒業である。
関係、なんて言ってはみても、私と彼にはいわゆる「男女関係」はなかった。
「お友達関係」。
あえて言えば、いや、あえて言わなくても、私たちにあった「関係」はそれだけだったのだ。
それでも、都築が女の子と寄り添うように歩いている姿を見てしまうと、胸が痛いことを私は知っていた。
私が彼と「お友達関係」であることを選んだのは、一つの利益衡量だった。
私が彼に告白した時、都築は「先月、彼女ができたんだ。」と言った。
そして「それまで3年間はあなたが好きだったけど」と。
その時、未だ下手をすれば、その「彼女」と「私」では、彼の中で差がないか、私の方が上だった。
だから私には、他の選択肢もあったはずなのだ。
しかし、私は、この男と付き合ってもうまくいかないことを、ほぼ本能で知っていた。
だから選んだのだ。
無理して略奪愛することよりも、この男と「お友達関係」を続けることを。
そうすれば、一生彼を見ていることを許される。
だから引き下がった。あまりに呆気なく。
しかし、私は選択を誤った。
うまくいかないのは、どちらにせよ一緒だったのだ。
お互いが隠してきた恋心を、お互いが打ち明けてしまったこと。
それは、自分も相手も縛ってしまった。
私はそれからも、友達として接しようとした。
友達のつもりで、食事も遊びも誘った。
けれども都築はそれに決して乗ってこなかった。
「ノリ悪いね〜」
そう言って笑いながら、私はいちいち傷ついた。
もう彼の中で私は「自分の事を好きな女」としてしか存在していないのだ。
どうしたら元のような関係に戻れるのか、考えあぐねた。
けれども、よく考えたら、これまでだって私たちは「お友達」だったことはなかったのだ。
私が都築を好きでなかった時には、都築が私を好きだった。
都築が私を好きでなくなった時には、私が都築を好きになってしまっていた。
どちらかに恋愛感情がある時、それは純粋に「お友達」とは言えない。
同じ土俵に立っていない。
男友達は、一歩転んだら好きになるかもな、という薄い恋心がなくては成立しないけれど、独占したいという気持ちに変ったら最後、それはもう「友達」とは呼べないのだ。
その綱渡的感覚が私は好きだった。
けど...