お嫁さんはどっち?-2
「はい」
「うん!」
三人で仲良く朝食を食べる。小さな喧嘩はあるけど、それでも三人仲良く。
これが俺、鎌田陸の朝のやり取り。こんな風な毎日を送っている。他の人間から見たら羨ましく見えるのだろう。実際、楽しいしこの二人に想われているのは自慢にしている。
ただ、俺はいずれこの二人に答えを出さないといけないわけで。二人もそのことを重々承知していて――
「はい、りっくん。あーんして」
「あ、ズルい! あたしも陸にあーんってする!」
「あ、あーん……」
こんな風に色々とアプローチをしてくるのだ。自分こそが俺の嫁に相応しいとアピールしてくればくるほど、俺はどうすればいいのか迷ってしまう。
こんな俺を慕ってくれる二人には悪いと思いつつも……
「さて、朝飯も食べ終わったし、今日はどうしようかね」
特に予定が入っているわけでもなく、何かしなければならないことがあるわけでもない。
簡単に言えば暇なのである。そんな暇を潰すのにちょうどいいのは――
「陸、暇ならあたしに勉強を教えてよ」
「お、珍しくやる気だな」
暇潰しには二人の相手をするのが一番いいのだが、彩花が勉強を教えて欲しいなんて言い出すとは、明日は雨が降りそうだな。
「あたしが勉強するのが、そんなにもおかしいことかよ?」
「かなり……な」
勉強よりも外で遊ぶほうが好きな彩花が勉強をすると言っているんだぞ? 宿題をするくらいなら教師に怒られた方がマシだと平気で言うような奴なんだぞ?
そんな奴が勉強を教えてくれと言ったら、熱でもあるのかと疑ってしまうだろ。
「言っとくけど熱なんかないからな。後、明日は晴れるって天気予報で言ってたからな!」
いちいち俺の言葉に突っ込みを入れてくる彩花。今のは所謂、言葉の文みたいな奴なんだがね。
それにいくら天気予報で明日が晴れだとしても、実際に明日になってみなければ分からないだろ?
「それは置いておいて、勉強だろ? 見てやるよ」
人に勉強を教える。そんな暇の潰し方も悪くはないだろう。――と、言っても俺が何でも教えることが出来るってわけじゃないんだがね。
ただ二人より年上で過去に習った場所だから教えることが出来るだけだ。決して、俺が優秀ってわけじゃないんだぞ。
「やった。それじゃ、早速あたしの部屋に行こうよ」
「ああ、分かった」
彩花に勉強を教えるために立ち上がると、台所から彩菜の大きな叫び声が響いた。
「ど、何処に行こうとしているのですかっ!」
パタパタと早足でこちらに向かってくる。そこまで急いで来なくてもいいのに、焦りすぎて手が水で濡れたままじゃないか。
「り、りっくん! 彩花と二人で何処に行こうとしているんです?」
「彩菜には関係ないだろ。陸は今からあたしと二人っきりになるんだからな♪」
にしし、と彩花が邪悪な笑みを浮かべる。今の彩花の心の中は、彩菜を出し抜いたことで優越感に浸っているのだろう。そんな雰囲気がありありと出ている。
「関係あるわよ! りっくんは私の旦那様なんだから!
――それで、りっくん……彩花と何をしようとしていたのですか?」
彩菜がジト目で俺を見てくる。よほど仲間はずれにされて話が進んだのが気に入らないようだ。
ここで下手に嘘なんかを吐くと後々、面倒になるから正直に本当のことを言おう。
「彩花の部屋で勉強を教えるんだよ」
「あ、彩花の部屋でですか!?」
「あ、あぁ……」
勉強という言葉よりも、彩花の部屋という言葉に反応している。何故、そっちの方が気になるんだよ。
普通は、彩花が勉強をするという所に驚くだろ。彩菜だって、彩花の勉強嫌いは知っているのだから。
「ダメです! 彩花の部屋で二人っきりなんて絶対にダメですからね!」
「ダメとか言われてもな……」
勉強を教える以上、二人っきりになるのは仕方のないことだし……
「勉強なら私が彩花に教えます! ですから彩花の部屋で二人っきりになるのはダメです!」
「ちょっ、あたしは陸に教えて欲しいの! 彩菜に教えて欲しくなんかないからな! それに少しくらい陸を独り占めにしてもいいだろ! 朝は彩菜が独り占めしてたんだから!」
「あれは、彩花が起きるのが遅かっただけでしょ! 私と同じように早く起きたらいいじゃない!」
「早く起きるとか無理に決まってんだろ!」
「無理じゃないわよ。早く寝れば、その分だけ早く起きれるでしょ!」
「いいや、早く寝ても起きる時間は変わらないね! 無駄に長く寝てしまうだけじゃん」
俺を間に挟んで口喧嘩が始まる。内容は恐ろしく低レベルだが、二人が口喧嘩を始めてしまったら時間がかかってしまう。
しかもその間、何処かに行こうとすれば怒りの矛先が俺に向いてしまう。
そんな面倒はごめんだ。ここは俺が二人の口喧嘩を止めるしかないみたいだな。
「二人とも落ち着け。二人一緒に勉強を見れば文句はないだろ」
三人一緒に居れば彩菜の文句はなくなるはずだし、彩花にも勉強を教えることが出来る。
まぁ、彩花が最初に望んだ俺と二人っきりというのは叶えることは出来ないが、このままいても結局、喧嘩が長引くだけで落としどころがなくなってしまう。
それならば、早めにオチを探した方がいいだろう。
「彩菜も彩花もそれでいいだろ?」
「で、でも……」
「私はそれでいいですよ」
彩菜は承諾してくれたが、やはり彩花が少しだけ渋っている。
「な、彩花いいだろ? 今日のところは三人一緒に勉強しような?」
彩花の頭をぐりぐりと優しく撫でる。強引な力技だが、文句は言ってられない。なんとか彩花には折れてもらって三人一緒に勉強をしなければならない。
そうしなければ俺の胃が余計なダメージを受けてしまうことになるから。
「頼むよ彩花……」
「うぅ……っ」