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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第8話-19


「タイム」
 だが、そのタイムは雄太から宣告された。そして、内野手全員に視線を投げかけて、マウンドに集まってくれるよう合図を出していた。
 岡崎、若狭、吉川、そして、桜子と大和も、チームの主将が発した意思を受け取って、それぞれの守備位置からマウンドに駆け寄った。
「桜子。ボールをくれるか?」
「は、はい」
 本塁打によるロストを補填するため主審から預かったボールは、桜子のミットの中にあった。
「先輩、どうぞ」
「サンキュー」
 ミットのまま渡すことが何故か憚られて、桜子はそれを右手に持ち直して、雄太にそっと手渡した。
「大和。もう、わかってるよな」
「………」
 雄太は、左手に持っていたボールを、大和の面前に差し出した。
「このチームのマウンドを……お前に託す」
「キャプテン…」
 エレナを経由して手渡された2部リーグ決勝のときとは違い、今度は雄太が自らの手でそれを大和に対して掲げている。その意味と意思を、理解できないはずはない。
「託すのはマウンドだけじゃねえ」
「………」
「チームの“勝利”も、だ」
 雄太の鋭い視線が、大和を穿つ。
「いいな、大和」
 一方ならぬ思いを込めた、雄太の視線。
「わかりました」
 それを真正面に受け止めながら、大和は表情を引き締め、そして、大きく頷きながら雄太に応えた。
「なら、受け取ってくれ」
「はい」
 雄太が掲げていたボール。それを大和は、まるで雄太の手を握り締めるかのようにして、受け取った。
(………)
 軟式球だというのに、とても重い手応えを感じた。
「みんな、いいな」
「「「………」」」
「これからの、俺たちのチームのエースは、草薙大和だ」
「ああ、わかった」
 沈黙の中、真っ先に答を返したのは、この場にあっても冷静さを崩さない岡崎であった。
「俺たちの大将が決めたことだからな」
 ややあって、かすかに笑みを浮かべながら、若狭が景気をつけるようにグラブを強く何度も叩いた。
「そうですね。僕も全力で、草薙君を盛り上げてみせます」
 吉川もまた、主将の言葉に首肯しながら、力強く殊勝に言った。
「ありがとよ」
 雄太は満足げに、一同の顔を見遣っていた。
「さて…と。それじゃあ、あとは…」
 そして不意におどけたように、桜子と大和の間に入って、両者の肩に手を置いた。
「こいつら二人、若いもん同士の水入らずにしてやろうぜ」
「って、お見合いかよっ!」
 若狭の素早い突込みが入った。意外に彼は、ボケに対する反応が早い。
「まあまあ、若狭くん。ここはもう任せちまって、ボクたちも準備をしようじゃねえか」
「だから見合いじゃねえっての!!」
 言うや二人は、マウンドを離れていく。雄太は一塁手に廻るべく自前のファーストミットを、そして、若狭も三塁手に入るための野手用のグラブを受け取るために、連れ立ってベンチに向った。
 それを出迎えたエレナは、雄太の健闘と決意に、敬意を表するかのように、彼を強く抱きしめて、惜しみなく“ガンバッタ賞(ほっぺたのキッス)”を与えていた。
「それじゃあ、ごゆっくり〜」
「蓬莱、草薙、ほどほどにな」
 普段はそんなことをしそうにもない岡崎と吉川までが、雄太の軽口に同調するようなからかいを残してマウンドを後にした。
 当然、後に残ったのは桜子と大和だ。二人は苦笑しながらも、双頬をわずかに紅くして、からかいの余韻を残しながら、視線を絡ませる。
「大和」
「ああ」
 交錯する二人の視線は、確かな決意を帯びて、凛々しく輝いていた。


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