『SWING UP!!』第8話-18
享和大|000|110|
双葉大|400|000|
入れ替え戦はいよいよ、試合の佳境ともいうべき終盤戦に突入した。
「………」
相手の先頭打者は、8番である。享和大の先発投手は、初回が終わった時点で既にマウンドを降りており、控え投手である選手がその打席に入っていた。
この試合では、安打を放っていない。おそらく打撃は不得手なのだろう。構えもどちらかというと、腰が引けた様子で、いかにも非力で貧弱なものに映る。
だが桜子は油断をしない。ストレートはボール球の見せ球とする一方で、小さいカーブと大きなカーブを交互に使って、相手を追い込んだ。
もっとも、変化球によるカウントの調整は、どうしてもボール球を増やしてしまう。雄太の投球数は、中盤以降に激増しており、微妙なコントロールも正直なところズレが生じ始めていた。
(継投)
何度もそれが頭をよぎった。だが、マウンドに立つ雄太から漲る気迫は、まだ衰えていない。だとすれば桜子は、それを信じ続けるのが捕手として当然だと考えていた。
「ボール!!!」
「!」
外角低めの小さなカーブに、おそらく手が出なかったのだろう。しかし、見送られたそのボールは、主審を手を高く上げさせることはなく、結果、フルカウントになってしまった。
(もう、ここしかない)
桜子は内角低めに、大きなカーブを要求する。相手の膝元を抉るように、そのコースを貫く緩い大きなカーブは、雄太にとっての必殺のウィニングショットだ。
「っしゃあ!」
だから雄太も、自信を持ってそのカーブを投げた。指のかかりも良く、しっかりとコントロールされた、渾身の一球といっていいボールだった。
しかし、である。
キィィン!!
「!?」
それを狙っていたかのような、8番打者の掬い上げるスイング。そのスイングが、雄太の投じた渾身のカーブを捉え、“いとも簡単”という形容が相応しいぐらい空へと高く舞い上がらせた。
「まさか…」
その上がり具合に、桜子の背筋が冷たくなった。マウンド上の雄太も、バットに当てられたことはともかくとして、あそこまで高くボールを運ばれたことに、瞠目の視線を送ることしかできなかった。
打球は、そのままスタンドに入った。
「おおぉぉっ!」
1点差に追い上げる、享和大にとっては会心の一打であった。しかもそれを打ったのが、およそ打撃では期待をしていなかった選手だったことも、ベンチを盛り上げる要因になっているだろう。
「………」
桜子は、いまだスタンドのほうを見遣っているマウンド上の雄太を見る。
(先輩…)
相当の気落ちをしているはずだと感じて、タイムを取ろうとした。