前 菓子屋-1
母と出かけることになり、ふらりと外へ出た。
近所を散歩していたらぽつぽつ雨。
帰らなくちゃ、と石を削って出来た階段を降りる。
降りながらいろいろ思い浮かべた。
この階段は私がちょっと前に彫刻刀で段差を彫ったんだよ懐かしいな、とか
『どうして親族の集まりに俺も行かなきゃいけないんだ?』て言ってた義兄の姿とか。
そんな義兄に『親族だからだよ』と頭の中で言ってやったりもした。
駄菓子屋に入っていた。
縦に大きい造りで、品揃え豊富で、奥まで駄菓子で埋め尽くされている。
どこか懐かしい、樹の香りがする店だった。
子どもがニコニコと隣を歩いている。
背丈が100pにも満たない小さな男の子。
何か面白い話をしてやろうと思い、その子は首から鍵を下げていたから、『鍵についたヒモを持って腕を回してたら、鍵が飛んでちゃった話』をしてやった。
子どもは声をあげて笑った。
店の奥にはカウンターがあった。
いまはどこかに行ってるだろうけど、店員がいたらきっとお会計カウンターだ。
子どもとはそこで別れた。
駄菓子屋は和菓子屋と繋がっているみたいだ。
駄菓子屋の奥を右に曲がると、割りと新しめな和菓子屋が続いていた。
規模は小さいが、真新しい木目調がピカピカ光る店内だ。
急に和菓子が欲しくなり、鞄から財布を取り出して品を見る。
どれにしようか悩んでいると、いつのまにか隣にいた母が、『ここは高いよね』と言った。
『え?』と聞き返すように顔を一時的に札から逸らし、また戻すと、さっきまで見ていたはずの値札の金額が、確かに高いように思えてきた。
高いわりに物は小さい。
買うのはあきらめた。
芸人の誰かさんがこの和菓子屋を好きらしい。
『好きな店として紹介してたの?』
情報源である母に訊いた。
『違うよ。"ひとには安い店を紹介して自分は高い店行くんだ"てテレビで言ってたんだよ』
『きっと人気出過ぎて混むのが嫌なんだ』と私は納得した。