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うたたね
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後 逃げたから今ここに-1

友達は有名高級飲食店オーナーの娘である。
たまたまその子を含めた4人ほどで遊んでいたとき、たまたま立ち寄った建物(デパート)に、たまたまその店が入っていた。
『特別に入れたりしないの?』
『出来るわよ』
『ええ!?』
あまりにも早い答えでびっくりした。
中が歓迎の準備をしている間、店の外で待っていた。
順番待ちの椅子に座っていた彼女が、立っている男の子に一枚の万札と5千円札を手渡した。
訳がわからなくて戸惑う男の子に、『あんたの持ち金に足せば足りるはずだから』と彼女は言い放つ。
ゴソッと千円札の束を財布から取り出した彼は、受け取った札と合わせて数えて抗議した。
『お金なくなっちゃうじゃないか!』
彼女達は待ち時間を痴話喧嘩して過ごすこととなった。




店内はともかく豪勢。全個室。
ふかふかの絨毯に、ふかふかの椅子。
真っ赤なビロードの飾りがキラキラ。
中世ヨーロッパのようなものだった。

席につくと食前の準備をウェイトレスさんが進めてくれる。
それらが終わったとき、オーナーの娘が言った。
私の側に器に入った何かが3つ並べられている。
『ありがとう。褒美よ。』
少女が器を掌で差した。
『あああ、ありがとうございます!』
嬉々としてウェイトレスさん達は『それ』を受け取っていた。
すぐその場で食べ始めていたのだけれど、その光景からは目を逸らした。
硝子の器に盛られたイクラの醤油漬けをティースプーンで食べる、メイド服姿のウェイトレスさんなんて見たくないからだ。


さて食事を、という時に、一緒にいたメンツはやたら注文の多い連中だったようで、ボーイさんを質問責めし始めた。
やれ、あれはどこだ、これはどこだ、とうるさい。
私も手洗いの場所を知りたかったが、訊いたあとすぐに、側にあった地図で調べた。
なんせ、ここは店がでかかった。
『わかります?』
ボーイさんが『教えましょうか?』を含んで聞いてきた。
『たぶん大丈夫です』
私は強がった。


その店でボーイの役割は、客を変装させることだ。
彼が手をかざすだけで、その部位がぽんぽん変化する。

最初は髪型を変え、次に服選びをさせてもらえるみたいだ。
しかし私は髪型を変えてもらったらへんで、『お手洗いに行っておこう』と考えた。
ドレスとか着せられたらたまったもんじゃない。
さっきチラと鏡を見てみたら、男装が似合いそうな頭だった。

男に変装して声色変えて紛れ込んでみようかな、すぐにバレるかな、なんて企みながら、絨毯を進む。
個室入り口は大扉だ。
赤い布の張られた全面に、金色装飾と金色縁取り。
重たいのかと思ったけど、案外軽々と押し開けられた。



『やっと、来たの?』


頭上から響く、ゆったりとした抑揚のある、低い声。

広間の置物が、喋った。

いや、店入るときには『いなかった』から、初見で『置物』と感じたのはそれっぽい台に彼がいたからだろう。
店に馴染むくらい豪華な装飾を施された、円柱の台は、私の背丈ほどの高さだ。

それに座っている彼は彼で、台と同じくらい背が高い。
鏡餅に目と口がくっついた風の見た目、それこそつきたての餅みたいに柔らかそうな彼は、動く度にもよんもよんと体が揺れている。
ゴーストバスターズのマークにあるゴーストにそっくりだ。

下半身は見えないが、上半身は裸。
そんな彼をじっと見上げていると、彼は何か作り始めた。


『いまねぇー…、あなたの夢の姿とぉー…―』

彼の左手側、雲のような餅のような何かをいじり、積み上げ、ちょちょいっとオレンジ色の服を着た白い人形を完成させる。
見上げてるから大きく見えるけど、実際は私の膝下くらいの背丈の人形だろう。

今度は彼の右手側をこね始めた。

『本当のあなた…―』

出来上がったのは、青い服を着た、黒い人形。



『どっちを消そうかなって、ずっと悩んでたところなの』

にったり微笑む、彼。


怖くなって、私は走って逃げた。





―――――――――――
現実で跳ね起きた私は、テレビの前でうつ伏せだった。


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