『彼方から……(もうひとつのエピローグ)』-1
あの空間に戻ってきた俺は、母さんと美宇のやり取りを見ていた。
(終わりましたね。)
静かな口調で声は言う。
「ああ、全部終わった。母さんも粋なコトしてくれるぜ。だけど、ここから見られるなら傍まで行くコトなかったんじゃないか?」
軽く肩を竦めて俺は小さく笑った。
(それはそうですが、すぐ傍に行きたかったでしょう?ところで気は済みましたか?)
「ああ、もう満足だ。あんたにも迷惑掛けたな。」
(いいえ、すべてあなたの行動の結果です。それに、私はこれからあなたを地獄に送るのですよ?)
「んなコトはどうでもいい。機会をくれたコトに礼を言いたいだけさ。」
(どうでもいい?)
「ああ、目的も果たしたし満足だ。とっとと地獄に送ってくれよ。」
クスクスと初めて声は楽しそうに笑う。
(ここでは言葉は必要無い……お忘れですか?)
「何がだ?」
(私には聞こえてしまうのですよ。彼女の事が心配なのでしょう?)
「へっ!確かにな。けど、いいんだ。あいつは大丈夫、俺が惚れた女だからな。気遣ってくれてありがとよ。」
(では、準備はよろしいのですね?)
「くどいぜ?未練がましいコトは言いたくない。でもな、最後に一つだけ頼みがあるんだ。」
(何でしょうか?)
「地獄に落ちる前にあんたの姿を見せてくれないか?どうにも気になっちまってさ。」
心底愉快で堪らない……
そんな感情が一気に押し寄せて来る。何が楽しいんだかわからないが、声は笑っていた。
「何がそんなにおかしいんだ?」
(こんなにも愉快なのは幾とせ振りでしょうか……。あなたは本当に変わった人間ですね。)
「何がだよ?」
(普通、ここに来た人間は私が話し掛けた時に最初に必ず言うんです『誰だ!姿を見せろ!』とね。あなたみたいな人間は初めてです、最後の最後で姿を見せて欲しいと言ったのは。)
「そいつはどうも。変わり者って言われるのは慣れてるよ、お蔭様でな。」
(いいえ、気持ちいいぐらいに真っ直ぐで純粋な人間だと言いたいのです。さて、正直言うと名残惜しい気もしますがあなたには地獄に行って頂きます。)
名残惜しい?随分と俗っぽいコト言うんだな。あんたも結構変わってるぜ?
「とっくに覚悟は出来てる。サクッとやってくれよ。」
(おや?行き先を聞かないんですか?)
「興味無ぇよ。灼熱地獄か極寒地獄……どうせそんなもんだろ?」
(では、最後に私の姿と行き先を告げてお別れしましょう。)
その言葉とともに俺の目の前に光りの固まりが現れて、それは徐々に人型を取っていく。
人型……敢えて言うならその形容詞が一番近い。だけど、決定的に違うのは背中に見える大きな翼。しかしまだまばゆい光りに包まれたままで、その姿ははっきりとは見えない。
徐々に輝きがおさまり俺の目にそいつの姿ははっきりと見えた。
だけど……