『彼方から……(もうひとつのエピローグ)』-2
「おいっ!ちょっと待ってくれ!」
「なんですか?」
「『なんですか?』じゃねぇよ!何だよあんた、その翼は……それじゃまるで……」
そこまで言いかけた途端に足元に黒い穴が開き、俺は吸い込まれていく。
「克樹、あなたの行く地獄の名は……」
そいつがその後に何を言うのか、俺には何となく想像がついた。あの《漆黒》の翼を見た時から……
「『人間界』です。」
じ、冗談じゃねぇぞ?
俺は生き返るってのか?
「いいえ、生まれ変わると言った方が適切かと……まぁ、どちらでもいいですが。」
「なんだそりゃ?適当過ぎるだろ!?」
予想外の展開に俺は酸欠の金魚みたいに口をパクパクさせるしか出来ない。
「あなたは証明してくれました。何度でも彼女を守ると言った言葉を。これはそのご褒美と言う事で……」
「ふざけんな!死んだ人間が戻ってきたら大騒ぎになるだろうが!!」
「ご心配には及びません。あなたには仮の名のままで生きて頂きます。もっとも、身体は渡瀬 克樹に戻って貰いますが……」
ばっ、ばかやろうっ!!
それが大事の元だろうが!
「大丈夫ですよ。面倒臭い手続きは私がやっておきますから。それに人間界では世の中にそっくりな人が三人程いるのでしょう?後はあなたの得意な根性とやらで何とかして下さい。」
バカ言うなよ。さっき俺は美宇と今生の別れって奴をしてきたってのに……
「最初はそのつもりでした。ですが、あなたは彼女と約束してしまったではないですか。」
「約束?」
「ええ、『またな』と。やはり約束は守らないといけませんよね?」
あれは言葉のあやって奴で、第一今更どんな顔で逢えばいいって言うんだよ。
「そうですね。実はそこが一番の楽しみなんです。再会した時、あなたがどんな顔をするのかここからじっくりと見届けさせて頂きますよ。」
楽しんでやがる……
コイツは間違いなく俺で遊んでいやがる。とんでもねぇぞ?コイツは神様なんてモンじゃねぇ。
コイツは……
まるで、コイツは……
「はい、お好きな様に呼んで下さい。」
サラっと笑顔で言いやがって……畜生!
「…このっ!!悪魔ぁーっ!!!」
叫び声とともに俺は身体を起こす。そして俺の視界に映るここは、ログハウスの中だった。
「う…嘘だろ?ホントに生き返っちまったのか?」
頭を振ってよろめきながら立ち上がると、俺は壁に掛けてある鏡を覗き込んだ。
「へっ……へへっ、ヘヘヘ……」
自然に俺の口から笑い声が漏れていく。そして鏡の中の顔も笑っていた。
渡瀬 克樹の顔で……
「畜生、なんてコトしやがんだあの野郎……最低だぜ。」
人の人生で遊びやがって。
まったく……
本当に……
最低だ……
「最低で………最高だぜ、ばかやろっー!!」