『SWING UP!!』第7話-6
(まだまだ、これからですよ!)
次はエレナが動いた。7番打者である浦に、サインを送った。
「!」
その初球を投じられるや、若狭がスタートを切った。小さなリードで、まったく走る素振りを見せなかったことから、相手バッテリーは牽制を挟むこともせずに、無造作な勝負の入り方をしてしまっていた。
キンッ。
バットを短く持っていた7番打者の浦は、コンパクトなスイングで直球を叩いた。打球は桜子が放ったそれのように、一・二塁間を転がっている。
若狭の動きに反応を見せた二塁手だったが、さすがに同じ轍は踏まなかったらしく、今回はすぐにその打球へ意識を傾けた。
打球の勢いが、それほど強くなかったこともある。相手の動きに惑わされなければ、平凡なセカンドゴロに過ぎないものだった。
だが、打者走者である浦の足の速さについて、考えが至っていなかった。簡単なゴロだと甘く見て、やや緩慢な捕球の動作でその処理をしようとしていた。
「!」
トップスピードに乗った浦の走力は、実は双葉大でも一・二を争うスピードを誇る。彼は、高校時代は陸上競技の短距離選手であり、インターハイで優勝こそはできなかったが、上位での入賞を必ず果たすほどに、安定した走力を持っていた。
「セーフ!」
一塁ベースを駆け抜けた浦。際どいタイミングではあったが、審判の両腕は水平に伸びる。
浦にとって、“必殺技”といってよい内野安打が記録された。
「Fuu、二重マルというところですか〜」
エレナが浦に出したサインは、“ヒット・エンド・ラン”だった。
打球の当たりとしては、平凡なセカンドゴロであったから、若狭はさすがに二塁で止まっていた。その結果だけを見れば、ヒット・エンド・ランが成功したとは言いがたい。
しかし、打者走者の浦がアウトに取られることなく、一塁上で生存している結果を見れば、それは確かにエレナの言う“二重マル”の成果といってよかった。
無死一・二塁。次の打席に入るのは、品子である。
「………」
ここでの自分の役割を、彼女ははっきりとわかっていた。
「アウト!」
とにかく走者を進めること。品子は、送りバントをきっちりと決めて、走者をそれぞれひとつずつ前に進めることに成功した。
送りバントは、彼女にとって唯一といっていいほど自信のあるものであった。
「ナイスだぜ、品子!」
下位打線の粘りが続いた。そして、その中に品子も加わっていたからこそ、雄太は大きな励ましを受けた気分になった。
(野球の、醍醐味だよな)
例え誰かが不調だったとしても、それをチームプレーによって補う。それこそが野球の持っている競技としての真髄であり、本質なのだ。