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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第7話-4

「ファウル!」
 2回表の攻撃が開始して10分。しかし、大和の打席は、まだ続いていた。
 カウントは既に、ツーストライク・スリーボールのフルカウントである。
「ファウル!」
 もうこれで、何球目になるだろうか。大和はアウトコースの、ひょっとしたらボール球かもしれない球をカットして、またしてもファウルボールを打ち放った。
「粘っている」
 と、いうよりは意図的に相手に球数を放らせているように岡崎は見ていた。大和の実力であれば、既に安打を放っていてもおかしくない投球もあったから、それを敢えてファウルカットしている彼には、なにか考えがあるのだろう。
「ファウル!」
 ついに、相手投手の大和に対する投球数が20球を超えた。たまらずに相手捕手は立ち上がり、明らかな敬遠ボールを要求する。
「ボール!!!! フォアボール!」
 肩で息を始めていた相手投手もまたそれに従って、大和を歩かせた。初めからそうしておけばよかった、と言う雰囲気を、相手バッテリーはうんざりした様子で漂わせていた。
(あいつ、えげつないことしたな)
 それを見て、雄太が苦笑する。
 5点のリードを奪った直後の先頭打者に、これだけ粘られて、結局は勝負を避けて歩かせてしまったのだから、東大学の勢いは相当殺がれてしまったに違いない。
 大和はそれを狙ったのだろう。
 そして、揺さぶりはそれだけに留まらなかった。
「!」
 相手投手の初球。まるで何も考えなかったかのような緩い直球が、5番打者である桜子に投じられた。
 その瞬間、大和は走ってきた。
「スチール!?」
 明らかに東稜大は虚を突かれていた。
 
 ギンッ…

 そして、その虚を貫くような打撃音が、桜子のバットから響いた。
「うげっ!」
 激しく叩きつけられた打球は、ワンバウンドしてから一二塁間に飛んでいく。大和がスチールを始めた瞬間、桜子は彼の意図を理解して、その走塁が活きるように、バウンドの跳ねる打球を放ったのだ。
 いわゆる、ラン・エンド・ヒットである。
「う、うわっ……」
 東稜大の内野陣は、打球に対する反応が遅れていた。大和のスチールに二塁手が釣られていたから、そのために大きく開いた一二塁間を打球が抜けていった。
「!」
 遊撃手の動きが一瞬緩んだのを見て、桜子の放った打球が外野に抜けたことを見切った大和は、走塁の勢いを緩めず二塁キャンバスを一気に駆け抜け、三塁めがけて疾走した。
 果敢な大和の走塁に、相手の右翼手が慌てた。目の前を転々とする打球を掴むや、よせばいいのに、三塁に返球をした。微妙なタイミングだったのだから、点差を考えれば二塁に返球するのがセオリーだったにも関わらず、である。
 そういうことを失念させるほどに、大和と桜子のコンビネーションによる揺さぶりが効果を発揮していたのだ。
「うわっ…!」
 余裕を失った相手の返球は、それが大きく右に反れた。
 三塁手がベースから離れてグラブを差し出した動きを目にした瞬間、彼は予定していたスライデイングをやめ。右足の側面でベースの角を蹴りつけた。
 つまり、三塁も廻ったのである。
「!」
 三塁手が後ろに反らしたボールは、カバーに入っていた左翼手がファウルゾーンで捕球した。そして、少しばかり体勢を崩したまま本塁へ送球していた。
 ところが今度は、その送球が高くなってしまい、捕手がそれを掴まえようと大きく伸び上がったものの、無情なるかなそのミットの上を通過したため、悪送球となった。
「ホームイン!」
 結果、クロスプレーになることは一度もなく、大和はワンヒットで一塁から本塁へと生還してきたのである。
「やりやがったな、こいつ!」
 イの一番に大和を出迎えた若狭が、右こぶしを突き出す。
 大和はかすかな笑みを浮かべつつ、その拳に自らのそれを打ち付けて応えた。
「蓬莱も気がつきゃ、三塁まで行ってやがるしな…」
 相手の送球ミスが二度続いた結果、桜子もまた難なく三塁まで到達していた。
 左足に古傷を抱える桜子は、走塁に関してはチームの中でも遅い方になるのだが、それでも余裕を持って三塁を陥れたのである。
 東稜大は、普通に打球を処理していれば単打で終わっていたはずが、1点を失ったばかりか、三塁まで奪われてしまった。
 実に見事な、撹乱戦法だった。



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