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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第7話-2

 隼リーグ2部 決勝戦 双葉大学 対 東稜大学

 双葉大|0
 東稜大|5


「………」
 呆然という言葉を顔に貼り付けているのは、ライトを守る品子である。彼女が追いかけていた打球は既に本塁打のゾーンを表すネットを越えて、その後方に広がるグラウンドを転々としている。
 初回のたった1イニングで、雄太が2本の本塁打を打たれたことが、彼女にはまず信じられないことだった。
(そんな...)
 まだ品子は、動こうとしない。
 それを尻目に、塁上を埋めていた走者が全て本塁へ悠々と帰還して、殊勲の一打を放った東稜大の5番打者もホームベースを踏んだ。
 スコアボードに書き込まれた“5”という数字が、異様なものとして双葉大のメンバーたちには映っていた。
「………」
 さすがの雄太も、顔色を失っている。
 2年連続の2部リーグ優勝へ向けて、意気軒昂に臨んだマウンドだったはずなのだが、落ち着く間もなく5点を奪われてしまった。
 調子は、悪くはなかった。そのはずだった。しかし、自慢のウィニングショットであるカーブを、いとも簡単に打ち放たれてしまった。
 先頭打者と、先の5番打者に喫した本塁打は、いずれもカーブを狙われたものだ。
 塁上の走者は全ていなくなったが、いまだに無死であり、双葉大学の野手陣は思いがけない試合の展開に動揺を隠せなかった。
「まずはひとつ、だ」 
 そう言ったのは、岡崎だった。
「十分に取り返せる。だから、まずはひとつ、アウトを取ろう」
 タイムを取り、集まってきた内野陣の中にあって、真っ先に冷静さを取り戻したのも彼であった。
「ああ…」
 それに対する雄太の返事は、これまでに聞いたこともないような、呆然としたものだった。
「屋久杉!」
「っ!」
 岡崎は、自失しかけている主将の名を強く呼んだ。いつにないその強い響きに、雄太は一瞬身を震わせてから、我に返ったように首を何度も横に振った。
「みんな、悪い!」
 グラブをバスバスッと2回叩き、自分に奮起を促している。
「出鼻を挫かれて、ちょっと浮き足立っちまった。でも、もう大丈夫だ」
 先頭打者に浴びた本塁打のことを言っているのだろう。ツーナッシングと簡単に追い込んでおきながら、カーブを痛打されて一発を浴びてしまったのだ。
 その後、連打と四球によって満塁とされてしまったところ、相手の5番打者にまたしてもカーブを打たれ、瞬く間に5点を奪われた。
「桜子、カーブは狙われているみたいだから、これからは見せ球にするぜ」
「は、はい!」
 浮き足立っていたのは桜子も同様だった。公式戦において、初回に大量失点を喫する試合は初めての経験であり、これをどのように立て直していくか、彼女はそのビジョンを抱けずにいた。
「まずはひとつ、ですね!」
 だから、とにかくひとつのアウトを取ることを目的とした。
「みんな、よろしく頼むぜ」
「応!」
 ようやく落ち着きを取り戻したように、雄太が発した言葉に皆が力強い反応を見せていた。
 サードの位置に戻った大和も、次の回に廻る自分の打席のことは放念して、バッテリーの挙動に集中する。
 勢いに乗る相手の6番打者は、構えが大きくなっている。5点を奪った余裕か、自らも長打を狙っているのだろう。
「………」
 仕切り直しとして投じた雄太の初球は、アウトコースへのカーブだった。そして、“見せ球”が示すように、ボールひとつ分だけ外していた。

 キン!

「!」
 大振りそのままに、アウトコースの球を強引に引っ張ってきた。カーブを見せ球に使ってくるだろうことは、多少読んでいたのかもしれない。その辺りは。2部リーグ最強と呼ばれ続けている東稜大の、対応力の巧さといえる。

 バシッ!

 しかし、読んでいたのは大和も同様だった。
 相手がアウトコースのカーブに対して、思い切りの良い踏み込みを見せた瞬間、彼は守備位置を幾分遊撃手よりに変えていた。そして、測ったように飛んできたライナーを、真正面で捕まえていたのである。
「あー、惜しい!」
 当たりがよかったので、相手ベンチから落胆の声が上がる。イケイケドンドンの調子が続いていただけに、ライナー性の当たりでアウトを奪われたことが、彼らにはことのほか残念に思えたようだ。
「キャプテン、ナイスピッチ!」
 大和はまるで何もなかったかのように、掴んだボールを雄太に投げ返していた。
「ワンナウト、ワンナウト!」
 ようやく手にしたひとつのアウト。桜子の大きな声による鼓舞を受けながら、雄太はプレートに足をかける。
 そして投じた7番打者への初球。今度はインコースへのカーブ。
「!」
 連続して初球に放られた緩い球。打ち気に逸る相手打者は、これもまた大きなスイングで振りにかかってきた。

 キン! バシィッ!!

「ああっ、またかぁっ!」
 再び、三塁手である大和へのライナーに終わった。今回は、定位置から一歩も動くことはなく、その打球を大和は難なくグラブに収めていた。
「「ドンマイ、ドンマイ! いつでも、打てるぜ!!」」
 芯を食った打球が続いていることに、東稜大のベンチは騒ぎ沸いている。完全に、雄太の投球を呑んでかかっている様子にも見えた。
「………」
 大和は、その雰囲気に付け入る隙を見ていた。


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