『SWING UP!!』第7話-12
「今日の試合は、なんだかすごく長く感じちゃった」
チームは現地で解散し、大和と桜子は同じ家路についていた。つまり、大和のアパートに桜子はやってきた、ということである。
2部リーグの優勝を決めたとは言え、本当の決戦は入れ替え戦にある。だから、チームとしても今回の優勝に対しての“祝勝会”なるものは考えていなかった。ただ、翌日のミーティング時に、部室で多少の乾杯はしましょうと監督のエレナは言っていた。もちろん、お酒は抜きで…。
「気分的に、10年ぐらいかかった気がしちゃう」
「僕もだよ」
…あの、なんだか色々すみません。
「ま、それはそれとして…。肘はどう? 大和」
「うん。なんともないよ。桜子は? 足はどう?」
「こっちも、大丈夫…だけど、ちょっと張りはあるかな」
お互いに古傷を抱える身である。特に今日は、それぞれ故障した部位を使う機会も多かった。
リリーフ登板をした大和は当然であるし、機動力を絡めた攻撃が多かった分、桜子もまた走塁で何度もダッシュをかけていた。
桜子にとっても、脚の動きの要と言えるアキレス腱には、相当の負担をかけたに違いない。
「クールダウンは、念入りにしないといけないな」
「そうだね」
示し合わせたように二人は視線を交わし、そして、頷きあった。
「お風呂、洗ってお湯を張るからさ、ちょっと待ってて」
ストレッチとマッサージの効果を高めるためには、湯船に浸かって体を温める必要がある。近場に銭湯でもあればその方が手早くて済むのだが、残念なことにそんな都合の良い話はなかった。
「あ、じゃああたしお洗濯するね」
現地で着替えていたので、汚れたユニフォームと汗に濡れた下着類は、それぞれのバッグに仕舞われている。
「大和のバッグ、あけてもいい?」
「ああ。お願いするよ。洗い物は全部、そっちの方に入ってるから」
「うん、わかった」
お互いの体の隅々を知り合っている仲とは言え、プライベートの詰まった手荷物だ。大和の了解を得てから、持ち主が言う洗い物が入っていると言うバッグのジッパーを開けると、中に詰まっていたタオルやユニフォームをわらわらと取り出して、手際よく洗濯籠へと詰め込んでいった。
大和との半同棲を始めてから随分たっており、桜子は家事にも慣れた様子を見せるようになっていた。姉の由梨が言う、“花嫁修業”の効果がはっきりと現れているようだ。
(花嫁ってそんなぁ。えへへ…)
…お願いですから、こっちに割り込まないでください。
さて、である。
(あっ…)
洗い物を取り出すうちに、ボクサーブリーフを手にした瞬間、桜子は顔にかすかな朱を走らせて動きを止めた。そしてそれは、恥じらいがさせた行為ではない。ちなみに大和は、一般的にはトランクス派だが、練習や試合のあるときはブリーフを着用している。そのほうが、“収まり”がよいからだ。
(今日は、してもらえるはずだから…)
試合が終わったことによって解禁となった、めくるめくひと時への甘い期待に、桜子は胸を疼かせていた。なにしろ、今回の禁欲期間は一週間を数えている。
(でも、もっと長くお預けになった気がしちゃう。なんでだろ?)
…本当にすみません。
(多分、きっと、激しいんだろうな…)
桜子の期待は、更に膨らんでいる。間を随分置いたときのセックスは、お互いに例えようもないくらいに乱れることをよく知っていた。