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スプーン・ポジション
【女性向け 官能小説】

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最低のオトコ-5




「……かず…き……」


今度は女が男の名を呼んだ。


変な汗が一気に吹き出して、俺は金縛りにあったように、その場から動けなくなってしまった。


まるで映画のワンシーンのように、女を軽々と抱き上げて、男が階段をゆっくり上がってくる。


俺を圧倒するような濃厚な香水の香りが、生ぬるい風に乗ってふわっと立ち上ってきた。


―――この男………。
間違いない。
あの時の―――。


俺の脳裏に、薄暗いオフィスで見た艶かしい光景が鮮やかに蘇ってきた。


精神的なダメージで不能になってしまった俺を、激しく興奮させ、数ヵ月ぶりに奮い勃たせたあの光景。


セクハラされ、いやがりながらも快感に逆らえずに欲情に押し流されていく凛としたキャリアウーマン。


そのあまりにもセクシーな後ろ姿に、俺の本能は強烈に猛り狂ったのだ。


あの夜以来、俺は何度となく妄想の中でこの男に成り変わり、「祐希」という女を犯しまくってきた。

他のAVや妄想も試したが、やっぱりダメだった。



今の俺にとっては「祐希」だけが唯一の欲情の源であり、女という存在そのものでもあるのだ。


それが、あの、隣の女だったとは―――。


顔が火照って心臓がバクバクしていた。


階段を登りきったところで男と急に目があった。


随分前から俺が見ていたことを知っていたかのような落ち着いた表情に、俺のほうがたじろいでしまう。


男は俺の存在などまったくお構い無しにさっさと女の部屋の前に移動すると、右手の人指し指に引っ掛けているキーホルダーをチャリチャリと揺らしながら俺に話しかけてきた。



「―――君、悪いんだけどさ。鍵、開けて貰えるかな」


「―――えっ」


言っている言葉の意味が一瞬理解出来ず、俺は反射的に祐希の顔を見た。


祐希はぐったりと目を閉じて、男の腕にだらりと頭を預けている。


「―――悪いね。この通り手がふさがってるもんだから――ついでに扉も開けて貰えると助かる」


丁寧な物言いながら、有無を言わさぬ自信に満ち溢れた男の態度。


いかにもエリートという感じのその押しの強い雰囲気に飲まれて、俺はまじないにでもかかったかのように手を伸ばし、鍵を受け取ってしまった。


心の中には明らかな迷いがあるのに、手はそんなモヤモヤした感情を無視して鍵を回し、扉を開ける。


そして情けないことに、俺はこの時、激しく勃起してしまっていた。


耳まで真っ赤に染まった祐希の横顔。


抱き上げられて大きくめくれあがってしまったスカートから延びる、なまめかしい太股。


これからこの部屋で繰り広げられられるであろう出来事を想像して、俺は激しく興奮していた。


「―――ありがとう」


男はまた人指し指で鍵を受けとると、ニヤリと意味深な笑みを浮かべて扉の奥に消えてしまった。



俺はしばらくぼんやりと立ち尽くしていたが、急に弾かれたように自分の部屋へととって返した。


ベッドに飛び乗って壁に耳をぴったりと当てる。

こもったような音ではあるが、隣の部屋の様子はしっかり伝わってきた。


薄い壁のすぐ向こう側で、ギシッとベッドの軋む音がする。祐希がベッドに下ろされたのだろう。


どうやら壁を一枚隔てて、俺のベッドと祐希のベッドは隣あわせになっているらしい。


『…………』


男の低い声がボソボソと聞こえてきたが、何を言っているかまではわからなかった。


『…………』


続いて祐希の甘えるような鼻にかかった声。


それからまたベッドがギシッと音を立てた。





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