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スプーン・ポジション
【女性向け 官能小説】

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最低のオトコ-4




この前以上に酔っているのか、真っ直ぐ立つこともままならない感じだ。


誰かに引っ張られるみたいに、よたよたと右に二、三歩歩いて電信柱にぶつかった。



「あーあ……。なにやってんだよまったく」


運転手が心配して窓から何か声をかけている。


「あ、あのー、へーきですから。ホントだいじょぶです」


ヘラヘラと笑いながら電信柱に寄りかかってなんとか立ってはいるが、とても一人で階段を上がれそうな状態ではなかった。



「……ったく……何が大丈夫だよ。フラフラじゃん」


なんだが出来の悪い姉貴が他人に迷惑をかけてるみたいな感じがして、俺のほうが恥ずかしくなってきた。


「……もー……しょうがねぇなぁ……」


ほっときゃいいのかもしれないが、なんとなく見過ごせない気がして意味もなくソワソワとあたりを見回した。


一人であの階段を昇るのは無理だろう。
もし落ちて頭でも打たれたら厄介なことになる。


なんでこうなってしまうのか―――あの女はいちいち俺をめんどくさいことに巻き込む。



いつも俺にはギャンギャン吠えて突っ張ってるくせに、意外なところで急に予告もなく頼りないところを見せるから―――なんていうか―――黙って見ていられなくなるのだ。



俺は軽く舌打ちをすると、仕方なく玄関へ向かおうとした―――その時だった。




『ほら―――つかまれよ』



不意に男の声がした。



「―――?」


俺はとっさにベランダの囲いの中にしゃがんで身を隠した。



『―――部屋まで連れてってやるから』


『……いい……らいじょぶだから……ほっといて……』

『一人じゃ上がれないだろ』

『も……私のことはいいから……課長は帰って……帰ってくらさい……』


『いいから、肩につかまれよ』


『……う…いいったら…………』


押し問答みたいな会話が繰り返されている間に、タクシーが二人を置いて走り去ってしまった。



『……部屋の鍵は?―――このポケットか?』


ゴソゴソと鞄を探るような気配のあと、キーホルダーを引っ張り出すような音が聞こえた。


「……あの男……部屋に上がり込む気だな」


バリバリ頑張ってる気の強い女を食事に誘い、泥酔させて、相手の判断力が鈍ったスキを狙って堕としにかかる。


昔の俺を見ているようで、ひどくいまいましかった。


会話を聞いた限りではつきあってるようではないし、女もそういう仲に発展することを望んでいるふうでもない。


断りたいのならビシッと言ってやればいいものを、ちょっと飲まされたぐらいでふにゃふにゃしているあの女にも無性に腹が立ってきた。


いつもの威勢はどこへいっちまったんだよ。
このままではそのスケベ野郎の思う壺だぞ。


俺はいてもたってもいられなくなり、大急ぎで玄関へ走ってクロックスをひっかけ、表へ飛び出した。


アイツの彼氏のふりをして迎えに出てやろう。


『俺の彼女に何やってんの?―――』


そう言って睨み付けてやったら、あのスケベ野郎はきっと尻尾を巻いて逃げ出すに違いない。


階段の下では、まさにスケベ野郎がアイツの身体を抱き上げてこちらに昇ってこようとしているところだった。


「―――あぁ、あのさ……」


そう言って手摺に手をかけた時、男が不意に女の名前を呼んだ。


「もっとしっかりつかまれ―――祐希」






――――祐希?


俺の心臓がビクンとはね上がった。






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