出会いのきっかけは一匹の猫でした-1
「瑠奈ちゃん」
ある日の夕方。冬の日だったため、夕方にもかかわらず辺りは真っ暗。
私はとある公園のベンチに座っていた。ふと、隣に座る男性が私の名前を呼ぶ。
優しく微笑む彼は私の恋人、天野 蓮(あまの れん)。
「どうしました?」
「呼んでみただけ。相変わらず俺に対してもそんなしゃべりかたなんだなぁって」
私が反応すると、くすっと彼が笑う。
お嬢様の執事である私はいつの間にか彼女だけではなく、誰に対しても敬語で話すようになっていた。もちろん、たった一人の家族である兄に対しても。
そんな私がおかしいのか彼はずっとくすくすと笑っていた。
「笑わないでくださいよ。私にとってはこれが普通なんです」
「じゃあさ…」
ふと、彼が私を抱きしめ耳元でこう囁いた。
「せめて俺だけにでも普通にしゃべってくれないかな」
「ふぇ…はぅ…」
「…聞いてる?」
「き、聞いて…まふ…」
実を言うと、私は恋愛経験などまったくなく…普通に話す分にはいいのだが、急にこんなことをされると混乱してしまう。
なんとか慣れようとしてもいきなりされるとどうしていいのか分からなかった。
顔を真っ赤にしておろおろする私を見て、彼はさらにきつく私を抱きしめた。
「あぅ…」
「…可愛いな、瑠奈ちゃんは」
そういって彼は私の頭をなでた。少し恥ずかしいが、なんだか幸せな気分になる。
この幸せな時間がいつまでも続くといいな。そう思ってしまう。
少し意地悪だけど優しい彼。そんな彼と出会ったきっかけは、一匹の捨て猫だった。