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妖精トム・ソーヤの繁活
【ファンタジー 官能小説】

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酒屋の娘サキ-1

郊外の小さな酒屋に労務者風の男達が焼酎を呑みにやって来る。店のカウンターでは若い女が髪を後ろに縛ってきびきびと動いている。見た感じ男勝りの娘だが目が大きく顔立ちが整っている。
娘は小皿の上にグラスを乗せて焼酎を瓶から注ぐ。焼酎が溢れて小皿に零れると、それを客の男は目を細めて嬉しそうに眺める。
「サキちゃんのこのサービスが嬉しいなあ」
そう言って皿ごと焼酎を受け取ると、口をすぼめてグラスの口に盛り上がっている焼酎を音を立てて啜る。そしてぼそりとサキに向かって言う。
「お袋さんの加減はどうなんだい?」
「ああ、まだ伏せてます。すぐには良くならないみたいで」
「リハビリとかはまだ無理なのかね」
「ええ、軽い当たりなら良いのですけれど、難しいみたいで」
その後黙って最後まで飲んでいた男は小皿に残った焼酎も啜ると、お金を置いて帰り始めた。
「ごっそうさん、良くなると良いね」
「ありがとう、源さん。気をつけて帰ってね」
「ああ、どうも」
サキは時計を見て店の戸を閉め始めた。シャッターを下ろして電気を消そうとしたとき、一人の男の子が店の中に立っているのに気がついた。
「ぼ……坊や、君どうしたの? いつの間に入ったの」
「僕……妖精トム・ソーヤ」
「なに……なに言ってるの? 何かの冗談?」
サキがそう言った途端、男の子が目の前で突然消えた。
「あっ、君……どこ? 坊や……どこにいるの」
「ここにいるよ」
「きゃっ」
サキが飛び上がったのは目の前から消えた男の子が自分の右側に立っていたからだった。
「ねっ、わかったでしょう。僕……妖精だから、姿を自由に消せるんだよ」
「捕まえた」
サキは男の子の肩を掴んだ。男の子は特に逃げる様子もない。そのとき、サキは何か空気のバリアのようなものが自分と男の子を包むような気がした。
そして甘い匂いがして来た。それは濃いシロップが胸の奥で広がって行くような甘く切ない気持ちになるものだった。
そのシロップのような甘みは脊髄の中にも広がり、正しい判断をする脳を溶かして行くような力があった。
すべて男の子から出る甘い香りのせいだ、そう思った。
本能的にサキは少年から離れた。すると甘い香りが消えた。そしてあの脳や胸の奥が痺れるような感覚がなくなった。
「確かに君は妖精かもしれないね。普通の人間じゃない。それは確か……」
「そうだよ。それに僕は他にもできることがあるよ。お姉さん……サキさんの体を修理してあげることもできるんだよ」
「修理? 私は機械じゃないよ。それを言うなら治療とかでしょう」
「そう……それを言いたかったの。治療できるよ」
「あいにく悪いのは家のお母さんで私は何ともないんだ」
「なんともあるよ。サキさんはお母さんと同じ病気になって倒れる時が来るもの」
「や……やめてよ、そんなこと言うの。私も脳溢血で倒れるっていうの?」
「うん、そういう遺伝子だもの」
「し……信じないな、君の言うこと」
そう言いながらサキは後ずさりした。
 


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