〈猛る瞳と擬態する者達〉-4
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「ここが…その港……」
吹き抜ける海風が、麻里子の太股を撫でた。
かなり日は昇り、二人の影は短く地面に映る。
あの日と変わらぬ青い空が広がり、凪いだ海面はゆらゆらと揺らぐ。
漂う潮の臭いの中に、文乃と美津紀の香りが混じっているよう。
麻里子は、とりあえず目に留まったプレハブの事務所に歩みを進め、ドアをノックした。
ガチャンとドアは開き、中から灰色の作業着を着た男が姿を現した。
あまりパッとしない、うだつの上がらなそうな男だ。
「警察です。この人達……最近見ませんでした?」
麻里子は二人の写真を取り出すと、その男に見せた。
『お、この二人なら最近ここに来たよ』
「!!!」
やはり文乃達はここに来ていた。
しかも、この会社の事務所にも来ていた。
早くも何らかの手掛かりが見つかりそう……二人の心は騒いだ。
『アンタと同じ警察手帳見せて、無理矢理うちの貨物船を見て、そして帰ったよ』
この男に不審な様子は見られなかった。
警察手帳を見せても変に戸惑う様子も無く、素直に二人の事を話してくれた。
しかし、何かが引っ掛かっていた。
「……その貨物船は?」
麻里子は軽く睨むように男を見て、鉄柵の向こうの岸壁を見遣った。
『まだ帰ってきてないよ。外国から原木を運んでんだ。明日には来る予定だよ』
「………」
麻里子はチラリと男を見たが、特別に変わった様子はない……至って普通の作業員としての振る舞いだ。
「ここを出て、二人はどっちに行ったの?」
『二人で車に乗って、その辺ぐるぐるしてからどっか行ったよ。……なんか事件でもあったんですか?』
ここまで聞いて、麻里子達は踵を返して車に乗った。
刑事が刑事を捜しているのは、どう考えてもおかしな事……あの男に変に勘繰られ、不都合な噂でも立てられたら話にもならない……小さな疑問が晴れぬまま、手掛かりを捜す為に二人は周辺を駆け回り、そして徒労に一日は終わった。