和解-6
「あー、眠ぃ」
土橋修は目をこすりながら独り言を呟いた。
「……どうして今日はみんなとバスケとかやんないで寝てたの?」
もう、郁美に関する話題はしない方がいいかなと思った私は、当たり障りのない質問をぶつけた。
「……あんま寝てねぇんだよ。お前のせいで」
突然ジロリと向けられた視線に、ギュッと心臓が掴まれたような気がした。
「え、私!?」
「お前が昨日郁美のこと話してきただろ。こいつ、何終わった事をわざわざぶり返すんだって、すげぇ頭に来てた。でもお前に言われた事が頭から離れなくて、ずっとそのことばかり考えてたらいつの間にか朝になってたんだよ」
よく見ると、土橋修の目の下にはほんのり隈ができていて、それに気付いた私は肩をすぼめて、
「すいません……」
と、小さく謝った。
そんな私の様子を見た土橋修は、フッと笑って、
「まあ、ひでぇ別れ方したから俺が悪いんだけどな」
と、言った。
「あ、でも……私だって沙織達の前であんな話しちゃったから……、あれは無神経だったと思う……。私こそ、ごめんなさい」
私は深々と頭を下げた。
「それは気にしてねえよ。俺も逆ギレしたし、おあいこにしようぜ」
「何その勝手なまとめ方」
私は、思わずプッと吹き出した。
すると土橋修はそれがおかしかったのか、今まで私に見せなかった優しい微笑みを見せた。
不覚にもその顔を見て、私はドキッとしてしまった。
この人、こんな表情も見せるんだ。
少しの間、土橋修に目を奪われていた私は、聞き慣れた予鈴の音で、ハッと我に返った。
「……じゃあ俺は教室戻るから」
土橋修は軽く右手を上げてそう言い残すと、かったるそうに自分のクラスの方に歩いて行った。
私はなぜか、土橋修の少し猫背気味の大きな背中が急に名残惜しくなり、
「ど、土橋くん!」
と、急に大きな声で引き止めてしまった。
彼はゆっくり振り返り、不思議そうに私を見つめる。
自分でもなぜ呼び止めてしまったのかわからない。
だけどそうしてしまったからには、何か話さなくちゃ。
「あっ、えぇと……。あの、私の携帯番号、いらなかったら消しといて!」
とっさに浮かんだ言い訳も不自然過ぎる気がして、自分の顔がみるみる赤くなって行くのがわかった。
「……気が向いたらな」
土橋修は、そんな私の心の内を見透かしたかのようにフッと笑うと、また背を向けて歩き出した。