和解-5
土橋修はしばらく難しい顔で黙り込んでいたけど、やがて制服のポケットからやけに真新しい黒い携帯を取り出すと、
「おい、携帯の番号教えてくれ」
と、唐突に向き直ってきた。
え、何で……？
私は突然の申し出に面食らうけど、拒否するのは何だか怖かったので、ポケットに入れていた携帯を恐る恐る取り出した。
「えーと、080の……」
私が口頭で番号を伝えると、土橋修は不慣れな手つきで携帯を操作していた。
そのもたついた仕草を見ながら、郁美が“修が携帯替えたからつながらない”って言っていたのをぼんやり思い出した。
「よし、これでいいな」
土橋修は安心したように携帯を閉じると、ゆっくり私の顔を見た。
「郁美と別れてから携帯替えたんだよ。そんとき郁美の番号消しちゃってさ」
えっ、郁美の番号のこと言ってたの！？
土橋修の言葉に私は驚き慌てて、
「ごめん！ それ郁美の番号じゃなくて私の！」
と大きな声を出した。
「はあ！？ お前の番号知ったって意味ねーだろ！」
土橋修は再び呆れた顔をこちらに見せた。
「だ、だっていきなり“番号教えて”だけだと普通自分の番号教えるでしょう！？ それに、郁美の番号なんてわかってるって思ってたし！」
慌ててはいたが、私は間違ったことを言ったつもりはなかった。
言葉足らずなコイツが悪い！
「……まったく、二度手間だよ」
土橋修は苦笑いしながら携帯を再び開いた。
でも、不思議とその苦笑いは嫌な感じのするものではなかった。
今度はちゃんと郁美の番号を伝え、携帯に登録してもらうと、お互い携帯をポケットにしまい込んだ。
そして、苦笑いを浮かべていた土橋修の顔が、急に真剣な顔になると、
「……近いうちに郁美と話し合うから」
と、ポツリと呟いたっきり黙り込んでしまった。
その浮かない横顔を見ながら、なぜそこまでヨリを戻したくなさそうなんだろうと言う疑問と、すぐ別れるならなぜヤリ捨てなんかしたんだろうと言う疑問が浮かび、それらを彼にぶつけてみようと思ったけど、昨日の怒った顔を思い出すと、何も言えずにいた。