〈過去を漁る黒鉄の檻〉-3
――――――――――――
「……この港……ここなのね…?」
美津紀は車から降り、辺りを見回した。
空は泣けるほどに青く澄み、雲は白く映えている。
海は静かに凪いでおり、まるで事件など無関係だと言わんばかりの長閑さだ。
その港は高い鉄柵で区切られており、外部からの侵入を防いでいる。
[ソーラス条約]
テロ予防の為に、国際線を持つ港には、関係者以外の侵入を防ぐ為と、外部とを遮断する為に高い鉄柵を設ける義務がある。
かつては釣り人などで賑わっていた港も、その鉄柵の為に釣り場を失い、殆ど無人のような静けさを保っている。
鴎島の鳴き声と、コンテナなどの貨物を運ぶローダーや、船のエンジン音が遠くから聞こえるのみだ。
「この港にね、あおいや真希を“消した”犯罪集団のアジトがあったって、同じ署の刑事から聞いたの……暫くしたら、誰も教えてくれなくなったんだけどね……」
何かがある……二人の思いは同じ方向を向いていた……前の警視総監や警察署長がグルになり、秘匿しなければならない理由がある……湾内を通る船が見えた……黒く光る貨物船……美津紀の中に、何かが弾けた。
「謎は解けたわ、ガリクソン君!!」
「………」
右手の人差し指を立て、頬に当てながら振り返る美津紀を、文乃は微妙な表情で見つめていた。
今の美津紀の台詞は、事件解決の手口を見つけた時のものだが、今のこの状況には相応しいものではなく、空気を読めない痛々しさしかなかった。
そんな文乃の心中など察する気配すらなく、美津紀はその鉄柵の開閉扉の傍にある、殆どプレハブ小屋のような運送会社の事務所の扉を開けた。
「〇〇警察よ。あの船の中を調べます」
応対した灰色の作業着を着た30代くらいの男は、その突き出された警察手帳をまじまじと眺め、訝しがって眉をひそめた。
『……タチが悪いな。偽造品かぁ?』
ムッとした表情の美津紀の前に文乃は立ち、自分の手帳を見せると、男は渋々と鉄柵を開け、二人を招き入れた。
『あの真っ直ぐに見えるのが、うちの船だ。作業の邪魔だけはしないで下さいよ』
男は二人を見送ると、直ぐに事務所へと戻っていった。