望み-9
ゼロ
ポロの心に刻まれた名前。
ー君はゼロにはなれないみたいですね……もう、必要ありません。
最後にそう言って鎖を外した男は、ポロの腹を裂いて川に投げ捨てた。
ポロの最後の飼い主は『ゼロ』を造る為にポロに様々な肉体改造を施した。
おかげで治癒能力が半端なく高い。
腹を裂かれて川に捨てられても生きていた。
シニタクナイ
それだけがポロの望む事。
「ポロ?」
カリーに両手で顔を挟まれて我に返る。
「何かぼーっとしてるよ?」
まさか病気に感染したのではないかと、カリーはポロと額を合わせた。
未だに人との触れ合いに慣れないポロはビキッと固まる。
「カリー」
ポロの様子にゼインは苦笑してカリーの肩を引いた。
「心配なんだもん」
カリーはぷうっと頬を膨らませながらも渋々とポロから離れようとする。
ポロを拾って助けてくれたのはカリーだ。
そのカリーに感謝しているのだが、どうやってその気持ちを表せばいいのかポロには分からない。
ただ……カリーがいつもしてくれる事、ポロが少し穏やかになれる事……ポロはおずおずと腕を伸ばしてカリーに抱きついた。
おやすみの時、おはようの挨拶……何かとハグするカリーに始めは戸惑ったが、この行為がポロは好きになった。
ほんの少し……普通の人間になれた気がする。
「ポロ……」
初めて自分から抱きついてきたポロにカリーは感動し、彼女を優しく抱き返す。
そんな2人をゼインは微笑んで見守っていた。
その夜、ゼイン達の居る宿屋に街の人々が集まってきた。
「私は医師のフロー。ゴイスの街を代表してお礼を言います。本当にありがとう!」
診療所に居た女性が満面の笑顔で進み出る。
「あなた方が運んでくれたワクチンでみんな峠を越えました。後1日でも遅かったら間に合わなかった……どれだけ感謝しても足りないわ」
涙声になるフローに街の人達もつられて涙を流し、あちこちから鼻を啜る音が聞こえた。
「感謝すんならアートンの医者に感謝しな。あんだけのワクチン集めんのは大変だったろうよ」
ゼインは居心地悪そうに頭を掻いてそっぽを向く。