第5話-19
「ああぁぁ…、あっ…!」
こうやって体を重ねる毎に感度が良くなっている。快感に、全身が悦びの声をあげる。
絶頂が近くなっているのか、英里の足がふるふると、堪えきれずに震える。
酸素を求めるように、半開きになった唇の隙間から、零れた唾液が淫らに滴り落ちる。
そんな彼女の仕種に、圭輔はぞくりと体が粟立つような快感を覚える。
「英里、可愛いよ…」
そう甘く囁きながら、圭輔はさらに愛撫を加える。
下半身への激しい動きとは対照的に、彼女の滑らかな背中にそっと唇を寄せ、触れるか触れないか程度のタッチで優しく滑らせる。
もっと、自分の手で乱れさせてやりたい…
久しぶりに感じる温かい彼女の中に、まるで全身が喜びに打ち震えているようだ。
片手を結合部に持って行き、人差し指と薬指で器用に陰唇を開くと、中指の腹でその中心の肉芽を擦る。
「はあぁぁっ…!!」
すっかり膨れた弾力のあるそれに触れられて、英里は一際高い声を上げる。
「や、それ、だ、だめ…っ」
びくびくと、痙攣する間隔がどんどん短くなる。
額から吹き出した汗が、顎を伝ってぽたりと水面に消えてゆく。
圭輔は突き上げながら腰を回し、隙間から溢れる愛液を肉棒に絡めて、激しく抽送を繰り返す。
英里にきつく締め付けられ、彼の方も限界が近付いてきていた。
バスタブを掴んで体を支えている英里の腕が震える。
自分の体に押し寄せてくる快感の波から、無意識のうちに逃れようとする英里を引き寄せ、圭輔は力を込めて貫き、掻き回すと、彼女の体が一際大きく跳ねる。
「ああぁっ…!」
媚肉の急激な締め付けに何とか堪えて、圭輔は彼女の中から爆ぜる寸前の自身を引き抜く。
その瞬間、先端を熱い迸りが吹き上げる。
「…っ!」
歯を食いしばり、圭輔は快楽に全身の力が奪われないように踏み止まる。
白濁液が彼女の尻に降り注ぎ、熱い感触に、絶頂に達した直後の英里の体にまた刺激を与える。
張り詰めていた緊張が解けて、倒れそうになる英里の体を、圭輔は後ろから優しく受け止める。
そのまま2人で浴槽に再び座り込む。
肩で荒く息をしている英里の体を抱き締め、耳朶を唇で挟んで慈しむ。
まだ弛緩した体で抵抗が出来ないのをいい事に、圭輔は彼女の体にいくつもの証を刻み付ける。
「あっ、そんな、目立つところに…!」
まだ快感の余韻に身を任せながらも、少しだけ息が戻ってきた英里は慌てて、首筋のキスマークに手を当てる。
「見えるからいいんだろ?」
にやりと、圭輔は悪びれた風もなく微笑む。
「…ずるい…」
ようやく呼吸が整ってきた英里は、じーっと圭輔の顔を不満そうに見つめる。
「はぁ?何が」
「だって!圭輔さんは…その、した後いつも余裕綽綽って顔してるから!」
本当に、自分ばっかり虜にさせられているようで悔しい。
口を尖らせてそう言い放つが、まだ上気して赤く染まっている頬だと何を言われても彼には可愛く見えて、説得力がない。
「ふーん…」
何気なく呟いた圭輔の瞳を見て、思わず英里は顔を引き攣らせる。
それはもう、すごく楽しそうな顔をしている…。
これはもしかして、墓穴を掘ったのか…?
「じゃあさ、俺が前後不覚になる位感じるまで、英里が相手してくれる?だったら何度でもふらふらになった俺を見せてやれるよ」
「…いや、あの決してそういう意味で言ったわけじゃ…」
どうやら嫌な予感は的中したようだ。焦りながら英里は前言撤回しようとするが、
「早速これから続きしようか。やっぱここじゃ動きづらいし」
と、圭輔は嬉々とした様子で、英里の話など全然聞いちゃいない。
いや、きっと聞こえている上で敢えて話を進めようとしているのだろう。
内心は自分の思わぬ一言が招いてしまった事態にうろたえている英里の様子を心底面白がっているに違いない。
「いい、いいです。今日はもう十分…」
後ずさるにも、狭い浴槽の中ではどうしようもない。
有無を言わさず、英里は圭輔に抱きかかえられ、耳元で、
「…1日はまだまだ長いもんな」
誘惑するような声で囁かれて、英里は怯えつつも、更なる期待に顔を真紅に染めた。
ソファの上に腰掛けた英里は、虚ろな表情で、さわさわと風に揺れているカーテンを眺めていた。
辺りはもうすっかり茜色に染まって、夕暮れ時。
しかし、彼女はタオルを体に巻いているだけという、ほぼ半裸の状態。
彼女の唯一の自慢の綺麗な長い髪も、今は毛先がはねてぼさぼさになっている。
額に手を添えて、体の奥の奥から溜め込んでいるものを吐き出すかのような深い溜息を吐く。
まさか、本当にやるとは…。
一方、圭輔はというと、既に台所で平然と夕飯の仕込みなんかをしている。
そういうところがなお腹立たしい。
到底、彼には何一つ敵いそうにないという事を徹底的に実感させられた。
「あ、目ぇ覚めた?」
「…覚めましたよ」
彼女はついぶっきらぼうに返答してしまう。
自分が先に気絶させられたのでは、もし彼が正気を失う位の状態になっていたとしてもわかるはずがない。
お風呂で敏感になった体を、緩急をつけた彼の愛撫で、翻弄され…。
途中から意識が混濁してわけがわからなくなってしまったが、一部の光景を思い出すだけでまた体が熱くなりそうになる。
どれ位、気を失っていたのだろう。
英里は一度大きく伸びをすると、手早く身支度をする。
「英里、夕飯も食べて行くだろ?」
圭輔に満面の笑顔でそう言われた瞬間、現金な体は急激に空腹を訴えてくる。
「…いただきます」
少し間を置いて、英里は返事をした。
“敵いそうにない”どころではない、彼には絶対に敵わない。
英里はさらにそう強く思うのだった…。