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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第5話-17

腕に抱かれながら、圭輔の顔をちらりと見る。
英里には、圭輔以外の人との恋愛経験が全くないため、こういった男女の機微については正直よくわからない。
…彼にも、心が通わず、殺してきた思いが今まであったのだろうか。
初めて抱いた恋愛感情を、相手にも受け止めてもらえた自分は、幸せだったのかもしれない。
「どきどきしなかった…」
「え?」
「圭輔さんに…その、好きだって言われる時より、どきどきしなかった…から…」
だから、彼を友達以上には思えない。
自分で言っているうちに照れてきたのか、英里は俯き加減で、徐々に小声になっていく。
そんな彼女の体を、圭輔はますます強く抱き締めると、
「…英里、好きだ」
耳元で、そっとそう囁く。
「…!」
熱い瞳で射抜かれて、その視線に釘付けになる。
そんな彼女の様子に、圭輔自身の胸も高鳴る。
彼女の反応が愛しすぎて、抑えが利かない…。
口付けざまに、彼女の体を押し倒す。
「!?」
優しくキスをされた直後の予想外の行動で、英里はろくに抵抗もできずに、あっさりと組み敷かれてしまった。
「あ、あの…?」
「今からしよう」
目を白黒させながら、英里は何を…と言い掛けたが、彼女の胸元には既に彼の手が触れていて、何をしようとしているのかは明白だ。
「え?え?だ、だってまだお昼前…」
まだ戸惑いがちの英里をそのままに、圭輔は彼女が身に着けている服の胸元を開いて、鎖骨のあたりに口付ける。
「や、だ、だめ、ダメですって…!」
「昨日からずっと我慢してたけど…もう限界」
圭輔の唇の、昨夜怪我をした部分が鈍く痛む。
その痛みが、同時に昨夜の口付けを思い出させて全身が熱くなる。
もう聞く耳を持たないといった様子で、圭輔は愛撫を止めない。
次第に、英里も時折艶っぽい声を上げてしまう。
「ほんとにだめ…!だって、私、昨日お風呂入ってないし、汚い…!」
その言葉に、圭輔はようやく、唇を離してくれ、英里はほっと一息つく。
「…じゃあ、この前の続き、しようか?」
「こ、この前の続き…?」
頬を染めた英里が鸚鵡返しに問い返す。
小首を傾げて、半開きになった唇が、妙に彼女を色っぽい表情に見せている。
(これで誘ってるんじゃないっていうなら、ほんと天然…)
「?」
圭輔の心の声は勿論届くはずもなく、英里は“この前の続き”について、必死に思い出そうとしていた。
「じゃあ、お湯張ってくるから、待ってて」
「えっ!?まさか…」
(…またあそこで!?)
英里の心の叫びを無視して、圭輔は行ってしまった。
そして5分後…
「半分位溜まったから、入ろうか」
「は、入ろうかって、同時に…?」
「そのつもりだけど」
「無理、無理です!!」
両手を大きく振って、英里は抵抗を示す。
服を脱ぐ瞬間なんて、絶対に見られたくはない。
「私が先に入りたいです!体洗いたいし!!」
「そんなの、俺が洗ってやるって。…隅々まで」
「へ、変態…っ!」
含み笑いを浮かべている。これは、絶対に反応を見て面白がっているに違いない。
もう英里が何を言っても、すっかりその気になった彼には聞こえていないようだった。
半ば強制的に連行されてしまう。
やたら嬉しそうな彼にどうしても抗えず、今回も渋々入浴を決意した彼女なのだった。


英里は少しぶすっとした顔で、お湯に浸かっていた。
何とか同時に入る事は免れたが、以前と同じ、狭い浴槽の中で圭輔と裸で密着した状態。
緊張で心臓がうるさい。
「英里は俺といるとまだ緊張するんだな…」
少し、淋しそうに圭輔は呟く。
「心を許した恋人同士にとって、一緒に風呂に入るなんて至極当然の事なのに…」
「ほ、本当なんですか…?」
「嘘」
「っ…!」
英里はきっと、圭輔を睨みつける。
相変わらず騙されやすい彼女に、彼は苦笑を浮かべながら、
「どう、緊張少しは解けた?」
「…わからないです」
手の平でお湯を掬いながら、英里は答える。
「そっか…」
圭輔は後ろから、ゆっくりと彼女の細い肩を抱く。
英里の顔を斜め後ろに向かせると、圭輔は彼女のふっくらとした赤い唇に口付ける。
「ん…」
軽く目を瞑って、英里も快くキスを受ける。
「英里にとってさ、俺ってまだ先生の印象が強い?」
「どうしてですか?」
「別に付き合ってる相手に緊張する事ないだろ。まだ対等になれてないかなーと思って、さ」
英里は少し逡巡して、
「そう、ですね…先生は先生だって心のどこかでずっと思ってるから…」
その決定的な踏み込めない領域が、常に英里自身を縛りつけている。
彼と対等になんて、なれるはずがない。
「俺は英里が思ってるような人間じゃない。嫉妬深くて、英里を傷付けて…幻滅しただろ」
「そんな…」
「たまに自信なくなるんだよ。人目のつくところだと普通のデートとかしてやれないし…それに…」
英里はどんどん綺麗になっていくから、圭輔は口を引き結んでその言葉を飲み込んだ。
圭輔の瞳が切なげに揺らぐ。
そんな彼の様子に英里もつられて、何故だか涙が溢れそうになる。
「幻滅なんて、そんな事ないです!私の事信じてくれない時は悲しかったけど、でも、やっぱり離れてる方がよっぽど辛いから…」
「俺の事、許してくれる?」
何度も頷きながら、英里は圭輔の首に腕を回す。
許す、許さないなんて話は最早どうでも良かった。
「…大好きです」
英里は目の端に涙を浮かべながら微笑んだ。
その表情は、圭輔の理性を振り切るには十分過ぎる程だった。


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