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夕焼けの窓辺
【その他 官能小説】

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第5話-16

そんな彼女の顔を見つめながら、彼はふと、
(ん…?何か俺、さらりと大胆な事言った…?あれじゃまるで…)
焦りで、圭輔の鼓動が急激に早まるが、どうやらあっさり返答したあたり、英里は特に深い意味に取っていないようだ。
こういうところは、彼女は鈍感なようで助かる。
圭輔は、目の前で愛らしく頬を赤らめている彼女を見つめる。
まだ、英里は学生で20歳にも満たないのだ。
この言葉を告げるには今は早すぎるかもしれないが、告げてしまいたい気持ちがある。
そうすれば、彼女は自分だけのものだと、より強く認識できるから…。
圭輔の腕の中の英里が、ぽつりと呟く。
「…私、圭輔さんの事考えてるつもりで、自分の事ばかり気にしてましたね」
「え?」
「迷惑掛けて嫌われたくないから、会いたくても会いたいって言い出せなくて…」
そんな自分の事を受け入れてもらいたいと願ってばかりで、圭輔の気持ちを全く汲もうとしなかった。顔色を窺っていると思われて当然だ。
「でも、これからはちょっと、わがまま言っても…いいですか?」
少しずつ、ほんの少しだけでもいいから、歩み寄りたい。
頬を染めながら恥ずかしそうに、そう告げた英里を、圭輔は再び強く抱き締めた。
「あ、あのっ…苦しっ…!」
焦った彼女の声を無視して、圭輔は彼女の体温を感じ、愛しさを募らせる。
(やっぱり、この子とは離れられないな…)
絶対に、手放してなどやらない。誰にも渡しはしない。
彼女のわがままなら、何でも叶えてやりたい。
彼女になら、どれだけ振り回されても構わない。
英里を抱き締めながら、圭輔はそんな思いに駆られた。

いつものように彼の作った朝食をゆっくりと食べ終えた後、珍しく眼鏡を掛けた圭輔が、パソコンと向き合って作業を続けている。
今度の試験の問題を作っているようだ。
そんな彼の背に凭れて、英里は読みかけの本を読んでいた。
こうやって一部が触れているだけでも安心する。
どうやら、彼も同じ事を感じていたようで、
「こんな風に過ごすのも、たまにはいいかもな」
などとのんびりした口調で話し掛ける。
「そうですね」
英里はぱらぱらとページを繰りながら、答える。
「よし、何とかキリのいいとこまでできたっと……ところで英里、昨夜は何でうちにいたんだ?」
圭輔の振り向きざまの問いかけに、英里は言葉に詰まる。
「え…っと、それは…少しでも、顔見られたら嬉しいなぁって…。すぐ、帰るつもりだったんですけど、倒れそうだったから、ほうっておけなくて…」
「あんな夜中に1人でいたら、危ないだろ」
前にも危ない目に遭っただろ、と彼の少し咎めるような眼差しがそう語っている。
「ごめんなさい…。で、でも!そっちだって倒れかけるまで無理しないで下さい!ちゃんと寝てたんですか!?」
それを指摘されると、圭輔も立つ瀬がない。
「確かに、あんま寝てなかった…。でも、昨日は久しぶりによく眠れた。英里が傍にいてくれたお陰かもな」
微笑みながら、そんな台詞を言われて、英里の胸の鼓動が早くなる。
つい、英里はわざとらしく話を逸らす。
「…家ではいつも眼鏡なんですか?」
眼鏡を掛けている姿を見るのは初めてなので、何だか新鮮だ。
「ん?いや、大体家で仕事する時だけだな。学校ではコンタクト」
「眼鏡掛けてる方が、先生っぽくて似合いますよ」
「そう?つーか先生っぽいって…マジで教師なんだけど」
穏やかに微笑んでいる圭輔の瞳を、英里は眼鏡越しに見つめる。
自分の疑いも晴れて、ようやく心が通じ合えたんだと実感できるような優しい瞳。
そう感じると、英里は何となく、彼に隠し事をしたままではいられなかった。
「あの…私、この前の彼に告白されました」
「ふーん…」
「…驚かないんですか?」
あまりにも素っ気無い返事で、つい英里は尋ねる。
「わかってたから」
「え…?」
英里はわけがわからないといった風に眉を寄せる。
「あの様子見れば、英里の事が好きなんだなってわかる」
「えぇ!?ど、どうしてそんな事わかるんですか??」
相手が驚くだろうと思っていたのに、彼女の方が逆に目を丸くする。
のん気な英里の反応に、思わず圭輔は溜息を吐く。
(鈍いなー…ほんと…)
「私、全然気付かなくて…それで…」
知らず知らずのうちに、彼を傷付けてしまったかもしれない。
英里は切なげに目を伏せる。
これからはもう彼と何気ない話をできる関係ではなくなってしまうのか。
せっかくできた、大学での知り合い。
彼の気持ちに応える事はできないが、今までのように友達として仲良くして欲しいだなんて思ってしまうのはわがままなのだろうか…。
「…あのさ」
感傷に浸ってるとこ悪いけど、と小声で呟きながら、圭輔は英里の鼻の頭をツンと、小突く。
「っ…!な、何…」
「目の前でそんな切ない顔して露骨に違う男のこと考えられると、あんま気分良くないんですけど」
「え、あ、ごめんなさい…」
圭輔は眼鏡を外すと、英里の体を正面から優しく抱き寄せる。
「傷付けたのが申し訳ないと思うならさ、そいつと付き合ってみればいいよ。それ以外、思いに応えてやる方法ないから」
「や、やだ、何でそんな事言うんですか…まだ、怒ってる、からですか…?」
耳元でそう呟く彼の声が、何だか自分を突き放すように冷たく聞こえたような気がして、圭輔を見つめる英里の瞳が、不安そうに揺れる。
「…傷付けたと思います、でも…自分の気持ちに嘘は吐けない…」
そんな英里の瞳を真っ直ぐ見つめながら、圭輔はゆっくりと話す。
「じゃあさ、もう自分を責めるのはやめろよ。英里は、全然悪くない」
「はい…」


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