天誅タイム-4
実習生20余人は、水族館前のバス停に集まっていた。
「あーすっきりした。」ユウナがリサに言った。
「どうだった?」
「あたしが『板東が今回の実習生の一人と関係を持った、って噂を聞いた』って言ったとたん、顔色が変わったよ。青から赤に。もうまるでカメレオン。」
「ほんとに?やっぱり間違いなかったのね。」
「カメレオンって怒るとどうなるのかな。」
「さあ、実習では板東主任は教えてくれなかったわね。」リサは笑った。
「写真はどう?ちゃんと撮れた?マグカップも。」
「任せて。一枚目は佐藤さんだけ、二枚目は二つ並んだカップのアップ。」
「ちゃんとイニシャルも入ってる?」
「どうにかね。ほら、」リサはデジカメの液晶画面をユウナに見せた。
「よし。拡大すれば判別できそうだね。ありがとうリサ。これと佐藤の写真を奥さんに手紙と一緒に送りつければ報復完了。」ユウナは楽しそうに言った。「あとの板東の処遇は奥さんと佐藤に任せよう。」
「住所も聞いたわよ。」
「ほんとに?」
「うん。奥さんの名前も。彩美さんって言うんだって。」
「かわいい名前だね。ますます板東の野郎が憎らしくなってきた。」
「でもね、私が住所教えてください、って言った時、あいつ、すっごく嬉しそうな顔をしたのよ。」
「うわ!気持ち悪っ!」
「その上。私の手を握ろうとするし。」
「えっ?!あんた触られたの?」
「よけた。」リサは笑った。ユウナも笑った。
ユウナは、ぽつんと一人、うつむいて立っている真雪に駆け寄った。「まーゆーきっ。」
「あ、ああ、ユウナ・・・。」真雪は目を上げた。
「大丈夫?龍くんの目、ちゃんと見られる?」
「う、うん。がんばる。あたし・・・・。」
「もう、絶対に龍くんの手を放しちゃだめだよ、真雪。」
「ありがとう、ユウナ・・・・。」真雪の目から涙が溢れた。
「まだ涙が残ってたの?もう、ほら。」ユウナはポケットからハンカチを取り出して真雪の目元をそっと拭った。
ユウナは真雪の肩を抱いて耳元に囁いた。「大丈夫。龍くんは絶対赦してくれるって。あたしが保証する。」
「ごめんね・・・・心配かけちゃって。」
「そのうち、おもしろい話、聞かせてあげるよ、真雪。」
「おもしろい・・・話?」
「そ。あんたもきっと喜ぶよ。」
「え?ど、どんな話なの?」
「今は内緒。そのうち、ちゃんと話してあげるから、楽しみにしててね。」
「う、うん・・・・。」真雪はユウナの顔を見てようやく、少しだけ笑った。
離れた場所からリサがそんな真雪の様子を微笑みながら見ていた。
バスが橋の向こうの交差点を曲がってやって来た。
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