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やっぱり嫌いな雨の日
【片思い 恋愛小説】

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やっぱり嫌いな雨の日-2


 それで、たった今読み終わって、少しぼ〜っとしている、と。そういうことだ。
 適当に入った喫茶店だが、そこいらのファミレストは違って、すごく趣味が良いって言うか、すごくレトロな感じがする。テーブルは黒光りして立派そうだし、ソファはフワフワしているけどツヤのある革張りだし、照明は明る過ぎず暗過ぎずで、聞いたこともないクラシックが流れている。そして何より、コーヒーがいまだかつてないくらい苦かった。うーん…これがほんとの大人の味って事?
 漫画を読み終えてやっと店内の様子を窺ってみて、私みたいな女子大生が漫画を読むのに利用できるような雰囲気じゃないなあって、そう思ったけど、私以外はお客さんはいないし、ソファーの上で足をブラブラさせて、頭をテーブルの上に突っ伏してみる。テーブルの冷たさが気持ちいい。目をつむればゆったりとしたクラシックと、絶え間なく、ぱらぱらと聞こえる雨の音が同時に聞こえてきて、頭の中の猥雑なことが全部ふっとんでいくみたい。
「あー、たまには雨の日でもいい事あるんだなー」
 これは所謂、『穴場』って奴ではないだろうか。こんな良いところたまたま見つけられてラッキーだな、私は。皆には内緒にしようーっと。そう考えていた時、
「うわー、ったく最悪だなぁ、今日は」
 入り口から若い男の子の声が聞こえてきる。おいおい、こんな懐古趣味な店に君みたいな若造は合わないぜぇ?と自分のことは完全に棚に上げて入り口を見てみる。
「あ」
 私の間抜けな声は、静かな店内で大きく響いた。
「あ」
 喫茶店のボーイ(っていうかマスター)にタオルを渡されている大学生くらいの男の子も、また間抜けな声を出した。私と同じように、店内に声が響く。
 マスターは不思議そうに、でもぜんぜん好奇心を感じさせない、柔らかい物腰で
「お知り合いですか?」
 と尋ねてきた。でも不思議と声が響かない。
 これはもしや運命では?と一人で思った。


「ええっと、久しぶり…で良いのか?」
 彼はマスターの手助けにより髪と服を乾かし、ミルクティーを注文してからソファに座る。
 っていうか!どうしてテーブルの真向かいに座るんだよー!顔から火が出そうだー!
「あっ、はい。久しぶりで、良いと思います…」
 私は彼の顔が見えないよう、俯き気味で答える。っていうか恥ずかしすぎて直視できない!
 あれ〜?私ってこんなに惚れやすいタイプの女だったっけ?一目惚れなんてしたことないのにな…
おかしい。何かの間違いじゃないだろうか?あ、そういえばこの間「あなたはこれから前世の記憶がよみがえってくる」なんてテレビで催眠術師がやってたけど……まあ、関係ないよね。全く、なに考えてるんだか…
「あっ、そういえば、この前の傘…ほんとに助かりました。ありがとうございます」
 何が、そういえば、だ。さっきから心の中で何回練習したと思ってるんだよっ!
 あ〜、これだけのこと言うだけで、こんなに勇気がいるなんて初めてだぁー!きっと顔、真っ赤になってる。
「いえいえ、どういたしましてー。俺も、ラッキーだったと思うよ」
「ラッキー?」
 どういうことだろう?いくらビニール傘だって500円くらいはするのに。
「いやね、君の役にも立てて、その上先輩と相合傘もできたからさ。すっげえついてるよ。一石二鳥って感じ」
「あ…この前の女の人って、先輩だったんですか」
「うん。そうだよ」
 二人はただの先輩後輩の関係ってこと?だったら私も、この人を好きになる権利くらいはある…よね?
 頬が、思わず緩んだ。
「あははは…そうなんですか。私はてっきり、二人は恋人同士かと…」
「ん?いや恋人だよ。先輩って呼んでるだけ」
 そう言って彼は、幸せそうに、満たされたように、はにかむように、誇らしげに、笑うのだった。
 とろけるようなその笑顔は、嫉妬を忘れてしまうくらい、彼が恋人を大切にしているんだなあって、私にまで伝わってくる。
 ……ちぇっ…そんな風に笑われたら…やる気なんて無くなっちゃうに決まってるじゃないかぁ。
「ぬか喜び、なんだなー」
 さっきの笑顔に一瞬見とれたけど、それでもやっぱり彼の顔は見れないまま、窓の外の暗い景色を眺めて、小さく小さく呟いた。
「え?何?」
「何でも無いですー」
 彼は不思議そうな顔をしている。
 どきどき、ぱたぱた、どきどき、ぱたぱた。 
 やっぱり、私は雨の日なんか大っ嫌いなのだった。

END


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