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やっぱり嫌いな雨の日
【片思い 恋愛小説】

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やっぱり嫌いな雨の日-1

「あー、もうっ!最悪!」
 本日の天気は雨。私は傘を持っていない。その上近くに雨宿りをできそうな所もない。必然、私はびしょ濡れになる。
 昔から雨は嫌いだった。雨は私の気分を憂鬱にさせる以外の意味を持たないのではないかと思うくらい、それくらい私は雨が嫌い。
 7つの時、両親と約束したのに動物園に連れて行ってくれなかったのも、11の時、林間学校でキャンプファイヤーができなかったのも、14の時、文化祭で好きだった男の子と踊れるはずだったフォークダンスが当日になってプログラムから消されたのも、16の時、初めての彼とデートした翌日に風邪をひいたのも、18の時、卒業の後で皆で行ったお花見の時桜の花びらが全部散っていたのも、あれもこれも、全部、ぜ〜んぶ雨のせいだった。
 えーい、もういい。ここまで来たらもう、毒皿だぁっ!もう濡れて帰ってやる!
 って、私が心の中でいろんなことを諦めた時、
「もしもし、そこのびしょ濡れのあなた」
 って、声をかけられた。
 びしょ濡れのあなた、だって。別に雨に打たれてるんじゃないやい!
 はっきりと、不快感をあらわにして、私は呼びかけに答える。
「なんですかー?」
「どうぞ、この傘使ってよ」
「……えっ?」
 いきなり雨が止む。私の頭の上にビニール傘が広がっている。
 その中に呼吸が二つ。もしかしたらキスを求められているのではないかと思うくらい、それくらい近くに、大学生くらいの男の子の顔があった。
「えっと、そんな、でも悪いですから!」
 突然の事態だからだろうか、私の胸の音は、速い。 
 その鼓動の速度は、そう、ちょうど雨の雫が傘を叩く音と、ちょうど重なっていた。
 どきどき、ぱたぱた、どきどき、ぱたぱた。って、そんな感じ。
「遠慮なんかしなくていいのに。見ての通り、コンビニのビニール傘だよ?」
 男の子が話しかけてくる。
 ちょっとー、初対面なんだからさあ、もうちょっと離れて喋ってくれよー!顔が近すぎて、相手の吐息が頬にかかってきて、なんだかすっごく恥ずかしいじゃないかぁっ!
 私は、もうとっくに雨音よりも速くなった心臓の音を抑えて、相手の勧めを断ろうとした。
「でもそれだと、あなたが濡れちゃうじゃないんですか?」
「いや、その点は大丈夫。連れの傘に入れてもらうから」
 そう言って、男の子は少し離れて待っている、これまた大学生位の女の子を指した。
「ああ」
 ああ、だって。なに?その気の抜けた返事は?
「うん。そういう訳だから、はい」
 男の子は優しくそう言って傘を渡してくれた。
「それじゃあ、ちゃんと帰ったら体を乾かすんだよ」
「あ、ありがとう」
 ちょっと!ちょっと私!なに素直に傘を受け取ってんの!どうせ手遅れなんだから!帰ってから速攻でお風呂に入ったって明日は風邪をひいてるんだから、早く傘を返しなさい!って、私の頭は命令するけど、私の心臓はオーバーヒート気味に動いてるけど、それでも私の体は動かなかった。
「じゃあ」
 男の子片手を挙げて走っていく。
 待って。と、言いたかった。
 傘を返せば、彼は、向こうで待つ彼女の傘に入らなくて済むのに、ってそう思った。
 でも、彼は結局、笑顔で迎えてくれる彼女の傘に入って、歩き出した。
「あーあ、相合傘…かぁ。仲、良いんだろうな…」
 どきどき、ぱたぱた、どきどき、ぱたぱた。私の心臓はまだまだ止まってはくれない。
 まだ暖かい、あの男の子の手の温もりを残した傘の柄を握り締めて私は、
「はくしょんっ」
 翌日、大学を休んだのは言うまでもない。


 でも、私の話はまだこれでは終わらないのだ。
 後日談っていうの?
 あれから数日後、私はまた、あの男の子と出会う。
 その日はやっぱり雨。やっぱり、なんて自分で言うのも悲しいところだが、やっぱり雨なのだ。
 ちなみにあのビニール傘はあの日以来全く使っておらず、家の傘立てで眠っている。
 そんなこんなで、ソファーの上に、私の隣に立てかけられている傘は、5年という長きに渡り、憂鬱を運ぶ雨の魔の手から私を守ってくれる、頼れる戦友、空色の傘が立てかけられているのだ。
 で、私は何をしているかというと、喫茶店で読書……なんてお洒落なことをしているわけではなく、学校の帰り道で買った漫画を読みたくて読みたくて、しかも雨のお陰で電車の到着時刻が遅れていると電気屋のディスプレイのテレビで放送しているし、家まで我慢できなかったから、たまたま通りかかった喫茶店に入って漫画を読んでいる、と。そういうことだ。


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