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秘め事の系譜 シホ
【同性愛♀ 官能小説】

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摘み食い-1

 火曜日の昼前、シホはスポーツジムのロッカールームにいた。
 娘のレイナと肌を合わせたのは数日前だが、あれ以来、体の火照りが中々おさまらない。レイナと顔を合わせる度に下半身が疼いてしまうのだ。表面上は普段通りに過ごしているので娘にも気付かれていないとは思うが、ついつい自分の方からレイナに手を出してしまいそうになる。
 あくまで、娘の意思にまかせる。
 自分の方から誘惑したりしない。
 それはシホが、レイナへの思いを自覚してから自分に課したルールである。手を出さないという選択肢が無いのがシホらしいと、サチコには言われてしまった。自分でもそう思う。
 サチコに言わせると妙なこだわりらしいが、やはり普通でない趣味である以上、母親の手で恣意的に導くよりは、自分の意思で選ばせた方がいいと思う。同性趣味という元から持っている性的嗜好であったとはいえ、従姉に無理やり刷り込まれた自分のことを思うと、どうしてもシホは、娘には自分の意思で選んでほしいと思うのだ。
 とはいえ、女として娘と愛し合ったのは、ついこの間である。思いを遂げた、などと言うと初心な乙女のようだが、それをきっかけに、なし崩し的に爛れた生活に及ぶのも好ましくない。
 毎日でも、いや、顔を合わせる度にレイナを押し倒しそうになる自分を抑えて、シホは悶々とした日々を過ごしていた。
「本当に、欲望に限りは無いのよね……」
 普段であれば、こんなときは恋人のサチコと思うままに愛し合うのだが、バイオリンの公演が近いサチコは練習で時間が取れない。今すぐにでもサチコに会って、身体の火照りを鎮めたいと思うが、次に会うのが週末の予定では、それもままならないのである。
 しばらく会えなくなるということで、先日の日曜日には娘のレイナが帰ってくるまで貪るようにサチコと愛し合ったのだが、どうやらそれでも足りなかったようだ。
 だから、愛人であるジムの受付嬢とデートの約束がある火曜日を、シホは心待ちにしていた。誰でもいいなどとは、さすがに相手の娘に失礼だから言わないが、そんな気持ちであることも否定しきれていないのだった。
 とはいえ、がっつくような雰囲気でデートをしたくは無い。せめて身体を動かそうと、シホはデートの前にジムに来ていた。デートは午後の約束なので、午前中に軽く汗を流すくらいのつもりである。
「あの……」
 いつものようにロッカールームで競泳水着に着替えようと下着姿になったシホに、シックで清楚な装いをした娘が話しかけてきた。
 年の程は二十歳くらいか。淡いピンクのブラウスに紺色のロングスカートという、シンプルで実に可愛らしい装いだ。黒いストレートヘアが綺麗な娘は落ち着いた物腰でいるものの、どうにも世間慣れしていないように見える。おそらくは大学生だろう。それも良家の子女が通う女子大学あたりに通っているような雰囲気だ。世間知らずの小娘、と言えば聞こえが悪いが、箱入り娘と言えばしっくり来るだろう。
 そこまで考えて、シホは目の前の娘に見覚えがあるような気がしてきた。が、どうも思い出せない。
「……ええと、どちら様だったかしら?」
「この間はどうもすみませんでした。今日は、サチコさんはいないんですか?」
 娘はキョロキョロとロッカールームを見回した。
「今日はアタシ一人よ。もしかして、サチコの知り合い?」
 そこで娘は、シホの顔を不思議そうにじっと見つめた。ほんの少し考えて、そしてようやく何かに気付いたように表情を変えると、改めて名乗った。
「アケミです。森之宮アケミ。先日、サチコさんに失礼なコトを言ってしまったんで、そのお詫びに来たんですけど……」
「……ええ!?」
 目の前の娘が誰なのかようやく思い出したシホは、驚きを隠せなかった。娘の名前を頭で反芻しながら彼女を正面からじっと見つめて、何とか先日のキツイ印象の小娘とイメージが重なる。だが、雰囲気があまりにも違いすぎて、頭が混乱しそうになる。夢で見たことと現実を刷り合わせようとして、うまくいかないような感覚だ。
「まあ、ずいぶんと雰囲気が変わったのね、あなた。その方が可愛らしいわよ。それで、まだ何かお話があるのかしら? 言っておくけど、サチコは今日いないわ。あれから彼女はあの男と顔も合わせて無いし。……あなたの望み通りにね」
「いいえ、あの、今日はお詫びに来たんです……」
「お詫び?」
「あれからちょっと、あの人とトラブルになっちゃって……。結果から言うと、その……、ヒロ君とは別れました」
「あらま」
 シホは話を聞きながら、カップの大きなブラジャーを外した。押さえつけられていた豊かな乳房がたゆんと揺れて自由になる。
「あの人、他にも手を出している人が居たんです。というより、恋人だと思っていたのは、どうも私の方だけだったみたいで……」
「まあ、口は上手そうだったわね」
「おかしいなって思う事も確かにあったんですけど、私が見ないフリをしていたみたいです。冷静になってみると、何であんな言葉を信じてたのか……。友人も気付いていたみたいで、何度も忠告してくれていたんですけど……」
「恋は盲目っていうけどね。でも、気付いて良かったじゃない」
 シホは滑らかな手触りの水着をバッグから取り出し、ロッカーの扉に掛けると、ショーツを脱いで全裸となった。
「この間は、本当にすみませんでした!」
 アケミは、シホが驚くくらい丁寧に頭を下げた。初めて会った時にも思ったが、大人しくしていれば、良家のお嬢様といった見た目なのだ。おそらくは実際にその通りで、今が彼女本来の姿なのだろう。落ち着いた雰囲気を取り戻した様子のアケミを見て、シホはニッコリと微笑んだ。
「いいわよ、別に。何にも無かったんだから」
「それで、気付いたきっかけって言うのが……、その……、変な話ですけど、シホさんとサチコさん、お二人のおかげなんです」
「アタシたちの?」


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