puppet title-12
パワーバランスはちゃんと分かっている。相手は1日で36人殺せる『殺人鬼』なのだ。パワーレベルはこちらのほうが低い。動揺、憤怒、その類は私にとって不利に働く。
確かに、私のお人形さんたちがいなくなってしまったのは悲しい。でも、それは生きている限り、また新たに手に入れることができる。
『殺人鬼』が言ったのは嘘という可能性もあるじゃないか。こんな読んで字の如くの殺人狂が、人間と人形の違いが分からないわけがない。
とにかく今は、生きることを考えよう。
目の前の『殺人鬼』に、殺されないことを考えよう。
「いや、いいんだよ。彼女たちはまた作れば良いってことだ。君は素直だね」
私は笑う。こんな時でも笑顔を作れるとは…全く、我ながら大した奴だ。
「しかし、そんなところにいては危ない。ガラスで怪我をしてしまう。箒を出すから待ってて」
「はい。どうもすみませんでした」
この部屋は一応、手術室と呼ばれるだけの事はあり掃除道具は常備してある。
そしてそのロッカーの中には、もしここに運ばれた少女が息を吹き返した時の為に、スタンガンと催涙スプレーが入っている。
箒とちりとりを取り、スタンガンと催涙スプレーをポケットに入れた。
「さあ、掃除をしないとね。手伝ってくれるかい?」
ざしゃっ
『殺人鬼』の方を振り返るが、そこには何もない。
というか、何だ今の音は?
いや、分からない振りをするな。
本当は分かってるんだろう?
私の天使が、真っ二つになっている。
私の天使が、真っ二つになっている?
私の天使が、真っ二つになっている!
「ああ、重ね重ねすみません」
私の天使が。
落ち着け。
私の天使が。
落ち着け。
私の天使が。
落ち着け。
私の天使が
落ち着け。
「本当にすみません。これから掃除をしようというのにゴミを増やしてしまって」
ゴミ?
何のことだ?
分からない振りは、していない。
ゴミ?
ゴミが増えた?
『殺人鬼』が増やした、ゴミ?
何のことだ?
全く分からない。
「どうしましたか?早く始めましょう。お掃除。ほら、これなんて邪魔でしょう?大きいし、もう人形としての価値は無いでしょう?」
ごっ
『殺人鬼』が私の天使の頭を、足で小突いた。
何を言ってるんだ、こいつは?
分からない。
本当だ。
本当に分からないんだ!
信じてくれ!
分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない分からない!
本当なんだ!
「ほら、はやく片付けましょうよ、『死体コレクター』さん。この」
『殺人鬼』は私の天使の頭を掴む。