puppet title-11
「お楽しみところ…なんでしょうか?どうも申し訳ありません」
自らの場所を変えることによって、私の視界に入ってきたのは、まるで子供のように小柄、子供のような仕草、子供のような顔、人間とは思えない瞳を持った、何か、だった。
「もしもし?聞こえてますか?」
動揺の色は見えない。こういうシュチュエーションに慣れているのだろう。
「……いや、済まないね。ぼうっとしてしまった。こんばんわ」
動揺の色は見せない。こういう人間に弱みは見せたくない。
「しかし窓を割って家に入ってくるのは感心できないな。インターフォンを鳴らせば迎えに出るのに」
当たり障りの無いことを言う。割れたガラスの破片に、月光が反射して、部屋が明るくなった気がする。この少年…いや、少女か?とにかく子供はガラスによる反射光と月光とで、まるでそこはスポットライトに照らされているようだ。
はっきり言うと、私は恐怖している。
「ああ、ごめんなさい。でも『人外』に人間的なマナーは必要ではないと思いまして。……えっと、あなたは一体なんなんですか?あ、ちなみに僕は『殺人鬼』です」
殺人鬼。人外。
聞き覚えがありすぎる単語が耳に入り、脳に突き刺さる。
しかし、殺人鬼といえば嵐間町から北に驀進して隣町の隣町の隣町…というか県境を越えてN県まで突き進んでいたはず。昨日見たニュースの情報だが、まさかこいつが交通機関を利用したとは思えないし、だといって1日で、それも歩きではN県からここまで戻ってくることは不可能の…筈、だが…
「というか、どうして嵐間町に帰ってきたんだ…?」
単純な疑問。物理的なものより精神的な…行ったり来たりを繰り返す理由が分からない。
「んー」
『殺人鬼』は少し考えるように、首を傾げる。
「あなた、『観察日記』というネットノベルはご存知でしょうか?」
「ああ。読んだことは、ある」
「あっ、そうですか。じゃあいいです」
質問の意味が読めない。しかし『殺人鬼』は私の事には全く興味がなくなったかのように、
「あーあ、また、外れだ」
とこぼした。
「しかし、一体あなたは何をしている方なのですか?」
「え?」
「いえ、ですから、あなたは一体、何者、なんですか?と聞いているのですよ」
さっきから私の質問には答えなくせに、質問が多く、こちらの事を全く持って無視した話の進め方。どう対応すべきか、判じかねていた。しかし『殺人鬼』は、問いの答えを求めるでもなく、さらに話を進める。
「そういえば、ここに来る前に…ああ、この部屋来る前ということですよ?他の部屋にも寄ったんですけど、死体が沢山ありましたね。僕吃驚し…」
「死体などという、下劣な言い方をするな。私のお人形たちを」
『殺人鬼』の大きな瞳が少し、ほんの少しだけ、細くなった。
……あーあ、なにムキになっているんだ、私は。
読まれてしまったぞ。私の心の中を。
しまったな。困ったぞ。どうすればいいんだ。
「そうなんですか。ごめんなさい。実は僕、上の部屋の、お人形、ですか?あれ、本当の人間かと思って、全部…」
聞かなくても分かる。私の人形をすべて殺した、と言いたいんだろう?
「壊しちゃいました」
壊した?どういうことだろう。
いや、分からない振りをするな。
本当は分かってるんだろう?
「本当にごめんなさい『死体コレクター』さん」
『死体コレクター』?誰のことだ?
いや、分からない振りをするな。
本当は分かってるんだろう?
「もしもし?聞いてますか『死体コレクター』さん」
1歩前に出て私の目を覗き込む『殺人鬼』。
飲まれるな。
殺されるぞ。