接点-6
沙織は、本当にモテる子である。
彼女と仲良くなったのは、同じクラスになった二年生からだけど、一年生の頃から男子の間では“中川沙織可愛い”と、人気があり、彼女はちょっとした有名人だった。
だから、たくさんの男の子が沙織に告白したらしい。
でも彼女はそれを全て断っており、今まで誰とも付き合ったことがないと言っていた。
沙織は、おっとりした女の子らしい外見だから、性格もおとなしくて、穏やかと思われがちだけど、実際は結構気が強く、頑固な所もあり、周りに流されずに自分をしっかり持っている子だったので、恋愛に関しても自分が好きになった人じゃないと付き合わないのかもしれない。
私は、沙織の人形のようなパッチリとした大きな瞳や綺麗にカールされた長い睫毛、緩やかに揺れるパーマのかかった茶色い髪をチラチラと見つめながら、彼氏がいないことをもったいないと思う反面、このまま彼氏を作らないで欲しいという、自分勝手な願望も持っていた。
「……そうだ! 今度桃子も遊ぶの付き合ってよ。それなら大丈夫そう!」
突然沙織は手をパンッと叩いて私を見た。
「それって……、私と沙織と大山くんと?」
「うん、ダメ?」
「ダメダメ!! 大山くんに邪魔者って思われるし、私だってイヤだよ!」
突拍子のないアイデアに面喰らいながら、私は顔の前で右手を素早く振った。
「えーっ。じゃあさ、男2、女2だったらどう?」
沙織は、大きな瞳でまじまじとこちらを見つめた。
「うーん……」
正直、無理だよなあ。
男の子と遊んだことなんてないし、何を話していいのかわからない。
それに、昔からいろいろからかわれることが多かった私には、男の子は……少し怖い。
沙織はニヤニヤしながら、そんな私の肩をポンと叩いて、
「桃子も少しは男の子に慣れなよ」
と言った。
「うん……でも……」
私はそれでも気が進まず、言葉を濁していた。
「桃子ってさ、女の子だけで遊ぶとすごく明るくて面白いのに、男の子が混ざると無口になったり、急に帰ったりするよね? 男の子が苦手なの、そろそろ克服したら?」
確かに男の子に対して苦手意識ばかり持っていたら、土橋修と郁美を会わせるセッティングなんてできるわけがない。
男の子に少しでも耐性がつくように、少しは接点を持っておくべきだろうか……。
私はしばらく黙り込んでから、
「……わかった」
と小さく答えた。
「よかった! じゃあ、大山くんの件、修に話してみるね」
沙織の言葉に、私は思わずギョッとした顔で、
「ちょ、ちょっと待ってよ! もう一人は土橋修なの!?」
と、とっさに土橋修を呼び捨てにしてしまった。
しかし、沙織は私の慌てぶりを特に気にもせず、
「だって、大山くんのこと相談してたのは修だし。それに修なら、きっとOKしてくれるよ!」
と、笑った。
沙織は、一度決めたらすぐに行動に移すタイプなので、次の日にはこの話は進んでいるだろう。
……どうしよう。
小さくため息をつきながらちらっと後ろを振り返ると、遠くで笑い声をあげる土橋修が一瞬だけこちらを見たような気がした。