想う兎-6
「……あの、ハヤカワさんは、俺と、どうなりたいの?」
「え、どうって……わたしと、お付き合いして欲しいって言うか……」
ツキコはしどろもどろになりながらも、一生懸命答えている。
俺はそんな彼女を愛おしく思いながらも、何故か少し意地悪をしてやりたい気分になった。
昨日のヨウコとのやりとりを思い出した。
昨日のヨウコは、今の俺のような気分だったのだろうか。
彼女とのやりとりの果てに、俺はとんでもない行為をしてしまう羽目になった。
だが、そのご褒美なのか、ヨウコのあの部分を目にすることも出来た。
俺は、ツキコに何を求めているのだろう。
無論、昨日の俺のような事を、ツキコにさせられるはずがなかった。
そもそも、俺は、彼女とどうなりたいんだろう。
「俺は、ハヤカワさんと、どうお付き合いすればいいのかな?」
「それは……一緒にデートしたり、勉強したり、するんじゃないのかな」
「ハハ、それって、今もあんまり変わらないかな。放課後は、結構一緒に居るしさ。勉強も、三人でしてたりするし」
「――今日の、タムラ君、なんだか意地悪な気がするわ」
「え、そうかな?」
「そうよ……」
そう言うと、ツキコはゆっくりと立ち上がって、意を決したようにパイプ椅子に座る俺の横まで歩み寄り、そのまま正面から俺を見つめている。
今までこれ程ツキコの顔を意識して見たことは無かったかもしれない。
校則の緩い学校だが、ツキコはあまり自分をメイクするような事をしていなかった。
それでありながら、白い肌はきめ細かく、小顔の中のパーツも整っている。
ヨウコのふっくらした唇を思い出した。
それと比べると、ツキコの唇は控えめで楚々としているように見えた。
そのツキコの唇が、ゆっくり動いた。
「あの……目を閉じてくれる?」
「え? どうして?」
「いいから、お願い」
俺はツキコの静かな気迫に押されて、思わず目を閉じた。
こういうことが、確か、昨日もあったような。いい所で、ツキコに邪魔されたのだ。
いや、邪魔と言ったら、彼女に悪いな。そういうつもりは、無かったのだから。
そして、今日はその彼女と二人きりだった。ヨウコは、今日は戻らないという。
ツキコの香りがした。控えめな優しい香り。やはり、ヨウコとは違う。
顔の前に、ツキコの体温を少し感じたような気がする。
そしてその瞬間、俺の唇は、柔らかい何かに覆われていた。
俺は、ツキコに――――唇を奪われたのだった。