想う兎-5
「……高校に入って、またこうしてタムラ君と話出来るようになったの、わたし凄く嬉しかったの」
「なんだよ、大げさだな」
「大げさじゃ、ないわ。だってわたし、あの頃からずっと、タムラ君のこと、好きだったから」
えっ? 俺は一瞬、彼女が何を言ってるのかわからなくなった。
俺はあんぐりと口を開けながら、ツキコを指さした後に、自分を指してみせた。
ツキコが、恥ずかしそうな顔をしながら、コクリと頷く。
しばらく、静寂。
「嘘、だろう?」
「そんな。嘘、じゃないわ」
「会長が、どこかに隠れて見ているとか?」
「サトウさんは、来月の養護学校での交流会の件で打ち合わせがあって、今日は戻らないって」
「信じられないよ」
「わたしも、男の人にこんなこと言うの初めてだから、これ以上どう言えばいいのか……」
いつも冷静で落ち着いてるツキコが、少々うろたえてる様子を見せた。
未だに信じられない話だったが、ツキコはあまり嘘をつくような性格をしていない。
とすると、彼女の気持ちは本心ということになる。
言葉が出てこなかった。
俺は、彼女が自分のことをそんな風に見ていたとは、ついぞ全くわからなかった。
さらに困惑することに、俺はヨウコが好きで、既に告白してしまっているのだ。
ヨウコはああいう性格だから、答えがいつ返ってくるかわかったものではないが、それでも俺は……。
ツキコが不安げに、俺の様子を伺っている。彼女は言うべきことはもう言ったのだろう。
投げられたボールを、投げ返さなければならない。
ごめん、俺、好きな人がいるんだ。
――言えない。ヨウコが好きだからといって、ツキコが嫌いなわけではない。
むしろ好感を持っているし、こうしてまた彼女と話をする時間は、俺にとって貴重なものとなっていた。
失いたくない。切れた絆が、ようやくまた繋がったのではないか。
じゃあ、何て言えばいいんだ?