想う兎-3
「俺は、ほら、内申書とかさ、よくしてもらえるって聞いたから。ハヤカワさんみたいに、頭、良くないしさ」
「それ、本当なのかしら?」
「ほ、本当だよ。あ、そうだ、お茶でも飲もうか? 俺、茶碗出してくるよ」
「タムラ君、そんな事、わたしがやるわよ」
生徒会室のポットは、俺が役員になる前からあった。
ヨウコのものらしい。彼女は二期連続生徒会に所属していて、前は書記だったのだ。
彼女は書記から会長になり、抜けた穴をツキコが埋めた形になっている。
ポットの中のお湯は給湯室で汲んできていた。
ツキコがケースから茶碗を取り出している。
ヨウコに比べると、かなり華奢な体つきかもしれない。
膝下からやや細めの足が伸びて、黒いストッキングがその足を包んでいる。
お盆にお茶を入れた茶碗を載せて、ゆっくり運んできた。
こうしてみると、ツキコはいかにもいいとこのお嬢様という風に見えた。
上品な顔立ちに、華奢な体つき、大人しくて聡明な性格。
会長のヨウコとはある意味対照的だった。
髪の長さと身長は、ほとんど同じかもしれない。
「ありがとう。でも、お茶ぐらい、俺がやるのに」
「いいの」
「そう? 会長なんかは、絶対自分でやんないよな。リクオ君、お茶! ってさ」
「……そうね。サトウさんは明るくて、楽しい人だから、男子は何かを頼まれるときっと断れなくなるのね」
「えっ? あっ、そう……なのかな」
「サトウさんに頼まれたこと、タムラ君は嬉しそうにやってるじゃない」
「ええ……? そんなこと、ないよ」
「そうかしら」
俺はお茶を一口飲んだ。俺たち三人の使う茶碗はそれぞれ決まっていた。
美術の授業で作った、焼き物の茶碗。
俺のは、これといった特徴の無い平凡なもので、ツキコのはなんとなくシックな雰囲気のあるものだ。
ヨウコの茶碗は実に前衛的な形をしているが、教師の評価は何故か高かった。
お茶をもう一口飲んだ。湯加減も、茶の濃さも調度良い。
ツキコが、お茶を飲む俺の顔を伺うように、チラチラと見ている。