想う兎-2
ツキコは両親の仕事の関係で、十歳までロンドンで暮らしていたという。
日本に移った当時は、日本語に苦労したようで、あまり友達もできずに孤立していた。そして、そんな彼女と何故か仲良くなったのが俺だった。
ツキコの家と俺の家の場所は近く、小学校の帰りに彼女が一人で帰っているので、俺がなんとなく声を掛けたりして、話をするようになった。
お互い少しづつ打ち解けて、ツキコも日本に馴染み、言葉のぎこちなさは徐々に消えた。
そうすると、彼女も女友達が出来始めて、以降は俺とはあまり話はしなくなった。
思春期だったり、男女を意識する年頃だったりしたことが原因だったかもしれない。
ツキコは海外に居たから英語は堪能で、成績も極めて優秀だ。
この高校は外国語科がある関係で英語の弁論大会に力を入れていて、毎回弁論部が学校賞を受賞しているのだが、その為に今年はツキコに白羽の矢が立った訳だ。
だが、ツキコはそれを固辞した。
彼女は弁論部の部員ではなく、生徒会の書記だ。
ツキコは、あくまで部員が大会に出場するべきだと主張して、自身はその手伝いをするに留めている。
部外者に賞を取られても、部員の肩身が狭いだろう事は想像出来るので、彼女の主張はわからないでもなかった。
だが、生徒会はさほど忙しくはないのである。
掛け持ちでも何でも、すればいいんじゃないの? と俺が言うと、何故か露骨に機嫌を悪くした。
実は、彼女も生徒会には立候補して入ったらしいのだが、その理由はよく分からなかった。
「そう言えば、ハヤカワさんって、何で生徒会入ったの?」
「えっ? それは……タムラ君は、どうなの?」
質問を質問で返すとは、ずるいな……と思った俺だが、これにはまともに答えることが出来ない。
まさか、会長が好きだったから、なんて言えるはずがなかった。