迫る兎-2
ヨウコは俺がそう伝えた瞬間、少し太めの眉を歪ませて、俺の顔を手に持ったポッ○ーで指した。
指したポッ○ーを俺の顔から、自分の顔に向ける。俺は、コクリと頷いて見せた。
そして、そのポッ○ーをそのままポリポリと口に運んでから言った。
「…………ええ〜〜〜? マジで?」
「マジ、です」
「あ、そう、マジなんだ。ん〜〜〜、どうしよう。あたしは、てっきり……」
ヨウコは少しバツが悪そうな顔をして、腕を組みながら言った。
「リクオ君は、ツキコちゃんが好きなんだな、と思ってたんだけどなァ」
「え、それは、違いますよ」
「だっていつも仲良くしてるじゃない? 幼なじみなんじゃないの?」
「それはそうですけど、でも俺が好きなのは」
「あたし、なの? ふ〜ん、それは、少し困ったわねェ」
「俺じゃ、会長とは釣合いませんか?」
「ん〜、そういう事でもないんだけどォ……」
ヨウコは俺からの突然の告白を受けて、さすがに戸惑っているようだった。
俺が副会長になったのは、有り体に言うと彼女が会長だったからである。
かなり邪な動機だったが、自分の役割はそれなりに果たしていると思う。
役割を果たしつつ、いつ彼女に告白するか機会を伺っていた。
それで、書記のツキコのいない今、言うことにしたのだ。
そういうチャンスは何度もあったのだが、ようやく言えて胸のつかえが取れた気はする。
副会長になるのは簡単で、改選時に立候補するや否やあっさりと決まった。
他に誰もやりたがらなかったからである。
この高校はコンパクトな高校で、一学年ニクラスしか無い。
普通科と外国語科が三十人ずつ。外国語科はほぼ全員女子で、普通科は男女半々である。
そういう訳で、男子の数が少ない。
少ない男子の中から一人は面倒くさそうな生徒会に入らなければならないので、俺が立候補したのは、他の男子からすれば有難いことなのだ。
ちなみに、ヨウコと俺は同じ普通科で、ツキコは外国語科にいる。
生徒会は行事前は忙しいものの、それ以外は思いの外特にやることもなく、暇だった。
暇な時期はなんとなく今のように役員がたむろして、思い思いの時間を過ごす場と化した。
そこそこ広い上に、校舎の隅っこの静かな場所にあるので、なんとなく居心地が良い。
校長室からのお下がりのやたら豪華な椅子と机が、会長の場所にだけ置かれている。
この机と椅子を使えるのは、生徒会長に与えられたささやかな特権だろう。
俺やツキコは、普通のパイプ椅子に机である。