彼女の失恋-5
驚いて口をポカンと開けたままの私を見つめながら、郁美はゆっくり頷いた。
「だって、あんた高1の夏に初めてエッチしたって言ってたじゃん!」
「……あれは……嘘だったの」
「マジで……?」
以前、私は郁美や、中学のときに仲がよかった女の子5、6人で集まり遊んだことがあった。
そして、おしゃべりが恋愛話になったときに、郁美が初体験の話をしていたのだ。
何人かは高校に入ってから彼氏ができて、初体験が痛かったとか、恥ずかしかったとか話をしていて、郁美も当然のごとく自分の初体験の話をしていたから、私はそれを信じていたし、経験のない私には、それがまさか嘘とは到底見抜けるわけがなかった。
「ごめんね、嘘ついてて……。エッチ済ませてた娘多かったから焦っちゃって……」
郁美は少し顔を赤らめた。
「でも、正直あんたが処女だった方が驚きだわ」
「あたし、いろんな人と付き合ってきたし、もちろんしたがる人もいたよ。でも、なんかどうしてもしたくなかった。迫られるともうダメ。すぐ相手が嫌になった。だけど修だと平気っていうか……むしろ自分から誘ったっていうか……」
後半しどろもどろになっているけど、郁美は土橋修が大好きだから抱かれたくて自分から迫った、と言うことだろう。
「初めてって怖かったし、恥ずかしかったし、痛かったけど、大好きな人だから幸せだったのに……。ねえ、桃子。やっぱり修と会えるようにできないかな……」
郁美の瞳からはまた大粒の涙が溢れて、乾いた地面に再びシミを落とした。
恋愛では絶対涙を見せなかった郁美が、土橋修を想って泣いている。
ヤリ捨てするような男なのに、ヨリを戻したいと言っている。
たいしてかっこよくもないのに、郁美が初めて自分から気持ちを伝えた土橋修。
郁美にここまで想いを寄せられる土橋修という男は、一体どんな奴なんだろう。
私は、土橋修がヤリ捨てしたことが許せないのはもちろんだけど、郁美が奴のどこに惚れたのか単純に知りたくなった。
私は少し間を置いてから、郁美の座るブランコの前に立ちはだかり、
「とりあえず、やれるとこまでやってみる」
と、彼女の小さな肩をポンと叩いた。