彼女の失恋-3
「……でもさ、郁美だったらまたすぐに彼氏できるって」
さんざん言葉を選んだつもりでも、結局こういうありきたりな慰め方しかできない自分のボキャブラリーの少なさが恨めしかった。
だけど、この言葉通り、郁美が別れると矢継ぎ早に男の子達がこの娘を狙って告白してくるのもまた事実。
そして、私は可愛い娘って得だよなあと毎度の事ながらつくづく思うのだ。
「うーん、なんか今は新しい彼氏を作る気がしないんだよね……」
ひとしきり泣いて、少し落ち着いた郁美は、一瞬だけ淋しそうに笑ってから、そう言った。
私はそんな彼女の微妙な表情の変化には気付かなくて、
「えぇ!? あんたが!?」
と、ポカンと間抜けに口を開けて郁美を見た。
「いつもは、別れてもすぐ他の人と付き合ってたけど、なんか……ダメなの。どんどん修の事ばかり考えちゃうの」
「未練?」
「……なのかなあ。振られたのって初めてだから悔しいのもあるし、憎たらしいのもあるし、ムカつくし、悲しいし……。でも会いたいし、声聞きたいし、隣にいたいし……。なんかいろんな気持ちがぐちゃぐちゃしすぎてどうしたいのかわかんないの」
そう言って、郁美はうなだれた。
「でも、いくらムカついても好きなんだよね。できるならやり直したいけど、携帯番号変えたみたいだから連絡とれなくて……。学校も違うからなかなか会えないし……」
ここまでひとりの男の子にこだわる郁美を初めて見たし、郁美を振る男の子も初めてなので、私は思わず、
「土橋くんってそんなにいい男なの?」
と口に出した。
郁美がゆっくり私の方に顔を向ける。
「だって、外見だけで言ったら今まで付き合ってきた男の子達の方がよっぽどかっこよかったじゃん。郁美が初めて自分から告白するほど好きな人ってどんなにいい男なんだろうって思ってたら……」
言いかけて、私は自分がずいぶん失礼な事を言っていることに気付き、続きを口に出せなかった。
郁美はそんな私を見てフッと笑い、
「外見はね。確かにパッとしないよ。でもなんでかな。初対面で少し話しただけで、なんか気になって、もっと話したい、一緒にいたい、二人で会いたいって思ったの。多分その時からもう好きになってたんだと思う」
とやけに自信たっぷりに言うのだった。