是奈でゲンキ!U 『是奈、エースを狙え!?』-5
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「ようっ田原! 久しぶり!」
条東学園、『自然に親しむ会』部長の『黒澤 信彦(くろさわ のぶひこ)』、彼もまた『田原 嘉幸(たはら よしゆ
き)』の親友である。
嘉幸とは幼馴染(おさななじみ)であり、中学までは学校も一緒だった彼等だが、高校からは違ったようである。それで
も変らぬ友情の証として、こうしてお互いに時々会いに来たり、会いに行ったりと、二人とも仲の良い友達のようである。
信彦は久しぶりに尋ねて来た嘉幸を、テニスコート裏の広場で見つけると、気さくに会話を始めたようであった。
嘉幸も久しぶりの親友との再会に、気を良くして話が弾む。
「黒澤っ! 借りていた『高山植物図鑑』、返しに来たぜっ!」
嘉幸は相変わらず、白いマウンテンバイクに跨り、背負ってきたディバックの中から厚めの本を一冊取り出すと、それを
信彦に手渡した。
「なんだそんな物、いつでも良かったのに」
「ついでみたいなもんさ、土曜はいつも部活で、学校に居るって聞いたものでね」
植物図鑑うんぬんよりも、こうしてわざわざ返しに来る嘉幸の義理堅い態度が、信彦も好きなようである。本を受け取り
ながら、信彦も嬉し気に笑っていた。
嘉幸が言った。
「ところでお前ん所、今日はテニスの大会やってんのか?」
「ああっ! あれは女子部の練習試合だ。公式の大会を前にした、実戦訓練ってところだろぅ」
信彦の、ありきたりな説明に嘉幸も「ふ〜んっ」と、相槌を打つと。
そんな女子テニス部の練習風景をみながら、更に言う。
「ところで黒澤……」
「なにっ…」
「いつも思うんだがぁ…… お前ん所(条東学園)って、可愛い女子……多いよなっ」
突然、照れたような顔をして言う嘉幸の言葉に、少し呆れたような表情をする信彦だったが。それでも嘉幸の視線の先に
居る、彼の言う可愛い子とやらを見るなリ、こいつ全く解ってないなぁ と、
「ば〜かっ、あれはお前ん家(藤見晴高)の女子だぞっ! 言ったろ練習試合だって」
そんな事を言う。
「あっ……そうかぁ」
「相変わらす色気の無い奴だな、田原わぁ」
信彦に言われて。
「いやぁ〜、俺みたいなアウトドア野朗なんかと付き合ってくれる女子なんて、居ないからなぁ。本当……女子には縁が
無くてぇ。ハハハァ〜」
突っ込まれついでの照れ隠しだろう、嘉幸もバツが悪そうに頭を掻きながら、話を盛り上げ、信彦と二人してゲラゲラ笑
い転げるのであった。
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「ええっ! どうして、どうして田原くんが此処に……」
是奈はテニスコートを囲うフェンスの向こうで、颯爽と白いマウンテンバイクに乗って現れた、嘉幸の姿をその眼(まな
こ)に捕らえ、驚いたのは当たり前。何やら胸の辺りが熱くなる思いに、感極まってもいた。
そんな是奈であるが、いつまでも感動の余り固まって動かない銅像で居られても困る。
彩霞は、そんな是奈の肩を軽く叩きながら。
「田原の奴…… お前のためにわざわざ応援に来てくれたんだ、ここは一つ、良い所を見せてやって、あいつの気持ちに答
えてやらないとな」
そんな事を是奈の耳元で囁いたりする。
「な…中村さん…… あたし……」
是奈は嬉しい気持ちに途惑いながら、彩霞の顔を見据えて身体を震わせて居た。
何気にその瞳が ”うるうる”していたりもする。
彩霞は何も言わず、ただ黙って踵を返すと。それでも片腕を上げて、背中越しに言う。
「さあっ是奈! 『田原くん好き好きアピール大作戦パート2』の始まりだ!!」
「……中村さん」
是奈、彩霞に何だが勇気を貰った気がした。