是奈でゲンキ！Ⅱ 『是奈、エースを狙え！？』-6
「オーーッホッホッホッホォ！ ようやく立ち直ったらしいですわね。秘密兵器などんと大層な肩書きをお持ちであそばす
から、どれほどの者かと思いきや、ただの木偶の坊でございましたわね！ この勝負！ 楽勝でございますわぁ！！」
気を取り直し、仕切り直してコートに付いた是奈に向かって、タカビーお嬢様『緑山 玲子』も言いたい放題。容赦の無
い冷やかしが、コートに木霊していた。
そして、ここは更なる精神攻撃とばかりに、
「中村さん！ 貴方も不運ですこと、ここまでリードして置きながら、結局パートナーの方に足を引っ張れるとは、つくづく……」
”ピピーーーッ！ はいそこっ！ 試合中の私語は謹んでくださぁーーいっ！”
どうやら玲子、お喋りが過ぎたようである。審判を勤めて居た『条東学園女子テニス部』の３年生に怒られた様子である。
「すみませんっ！」
玲子は慌てて謝ると「キィーーーッ！」とばかりに、何を悔しがっているのやら、こめかみの辺りを引き攣らせながら、
攣り上げた目でもって是奈を睨む。
是奈は「濡れ衣だぁ～！」と思いつつも、玲子の視線に背中を凍りつかせもする。
「よ、よろしいですわ！ こうなった以上、このような腹立たしい試合など、ちゃっちゃとお開きにして差し上げますわ」
玲子はそう言うと、次のサーブを撃つべく、ライン際に立ち。得意の剛速球サーブを彩霞の足元へと叩き込んで来たので
あった。
彩霞はそんな玲子のサービスボールを難なく返すと、玲子は待ってましたとばかりに、それを是奈に向かって、さっき審
判に叱られた腹癒せとばかりに、狙い打ちして来た。
勢いを増したボールが、是奈目掛けて飛んで来る。
「是奈っ！」
思わず彩霞も叫んで居た。
恐らく、今度ばかりは偶然の何者でも無かっただろう。
是奈は飛んで来たボールを無心で引っ叩き、叩かれたボールは見事に相手コートへと打ち返った。
矢のような勢いで持って飛んで行ったボールは、コートの一番端で ”ボー”と突っ立って居た玲子のパートナー、和美
の足元に突き刺さると、そのまま勢い良く弾んで、コート後ろのフェンスの方まで転がって行った。
そして、空かさず審判がコールした。
”イッツイン！ ゲームポイント『中村、朝霞』ペア！！”
「わっはぁ～～！ 勝ったぁ！ 勝ったぞ是奈ぁ！ 良くやったよお前っ！！」
彩霞は嬉しさの余り、是奈に抱きついて彼女の頭を撫でまわして居た。
「ほえっ？」
是奈は訳が解らず、呆けていた。
「和美さんっ！ 貴方なにをボーっと突っ立て居るんですのっ！ あの程度のヘロヘロ球、貴方なら雑作もなく返せたん
じゃなくってっ！」
「ええ～～っ……そんな事言ったってぇ、玲子さんがフォーメーション ”Ｊ”だって、言ったんじゃないですかぁ～」
どうやら、『玲子・和美』ペア、作戦失敗のようである。
「おのれぇ……秘密兵器めっ！ 次は必ず仕留めてみせますわっ！」
しかしながら、何気におかしな気合が入る、玲子であった。
～～～～～
「でぇ。この間の話なんだけどさぁ。白川岳から武甲岳までのサイクリングロードを走ったけどさっ、あそこって……こう、
標高が高いだろうっ、それでもって……」
「ふんふん、なるほどなるほどォ…… それからそれからっ」
嘉幸は、天高く突き上げた腕を横に揺らしながら、楽しかったサイクリングの話を、ああでもない、こうでもないと、
一生懸命、親友の信彦に語って居た。
信彦も興味有りげに、しきりに頷きながら、嘉幸の話に夢中になって居た様子である。
～～～～～
「是奈、よくやったな、見ろ！ お前の王子様も、あんなに手を振って喜んでるぞ！」
彩霞は是奈の肩を叩きながら、テニスコート脇から、しきりに手をふり応援してくれている嘉幸を指差し、そんな事を言
う。
是奈もそれを見て。
「田原くん……」
涙ぐんだ目を軽く擦りながら、自分の奮闘を称えてくれる嘉幸の気持ちに歓喜し、言葉を詰まらせて居た。
「よ～し是奈っ！ この調子で次のゲームも頂きだぁ！」
彩霞は更なる激を飛ばし。
「はいっ！ 中村さん！ あたしがんばるっ！！」
と、是奈も元気一杯、笑顔で答えると。なんだか少し恥ずかし気（げ）では有ったが、応援してくれている嘉幸に向かっ
て、さりげなく『Ｖサイン』を出して見せたりする。しかしながら、やっぱりもって照れ臭かったらしい、慌てて
”ペロッ”っと舌を出し、おどけたりもしていた。