G-12
「やっと読めるわ……」
荷物が届いて以来、缶詰めの件で忙殺されていたが、ようやく機会を持つに至った。
雛子は玩具を与えられた子供の様に、目を輝かせながら頁をめくった。
無数に並ぶ活字の中で、彼女が知る場所の名を見つける度に、頭の中は子供だった頃の出来事が甦える。
雛子にとって、至福の時間が流れていた。
「きれい……」
視界が捉えたのは、安曇野の風景を写した写真だった。
記事に添付された写真は小さな物だが、かつて、その場所を訪れた事のある雛子の目には、この上なく美しく思えた。
(あれ……?)
その時だ。雛子の頭の中で、稲妻のようなものが走り抜けた。
それはまさに、天啓であった。
(これ、ひょっとして……)
雛子は、隅に寄せたちゃぶ台を慌てて出すと、かばんからノートを取り出し何かを一心不乱に書き出した。
居ても立ってもいられない。この形容がぴったり当てはまるほどの慌て様は、真夜中まで続いた。
翌朝。
「いってきます!」
雛子は、何時もと変わらぬ時刻に家を出た。
昨夜は寝る間を惜しんで何かを書いた為、僅かな睡眠しか取っていないにも拘わらず、その目は冴え、頬は紅潮している。
彼女は胸に、重大な決意を秘めていた。
「おはよう、みんな!」
誰もいない校庭で、雛子は声を挙げた。声の先には鶏小屋があった。
かばんから軍手を取り出して小屋の中に入っていく。日課となった掃除だが、これからの事を考えると自然と力が入る。
「今日はお早いですなあ」
掃除を始めてから十分程経った頃、高坂が姿を現した。
「おはようございます!校長先生」
挨拶を交わす雛子を見て、高坂は何かを感じ取る。
「今日の雛子先生は、何時もと違いますなあ」
「えっ?」
「何と言うか、気が漲っとります」
自分の心積りをずばり言い当てられ、雛子は決心した。
「校長先生、聞いて頂きたい事が有るのですが……」
「例の給食の件ですかな?」
「いえ。そうじゃありません」
そう言って高坂を見る目は、強い意志を感じさせた。
「この、美和野村についてなんです」
「この村について?」
「そうです」
雛子は大きく頷いた後、訥々と語り出した。それは、聞いた高坂が驚く程に、とんでもない事柄であった。
「a village」G完