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a village
【二次創作 その他小説】

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G-11

 雛子の兄、河野光太郎より荷物が送られてから数日後、美和野分校のお昼は、以前にも増して賑やかになった。
 翌日、缶詰めの件で相談を受けた校長の高坂は、一もニも無く実施する事を賛成した。
 それからは、どの様な具合に実施するかを高坂以下、教師全員で協議を進めて詳細を詰めた。
 結果、毎週一回、水曜日を“給食の日”と称して缶詰めを子供達に提供する。給食の日は全員がおむすび、又はご飯だけを持参し、缶詰めをおかずとする。缶詰めの配給の為、各学級に給食係を設ける。と決まった。
 これらは、皆で同じ物を食して仲間意識を養うという、実際の給食が持つ意義が盛り込まれたものだった。

「先生!皆さん!頂きます!」

 給食係の掛け声が教室一杯に広がった。級友達は両手を合わせた後、ちょっとぎこちなく唱和をする。
 学級の誰もが、給食の日を楽しみにしていた。

「頂きます!」

 もちろん、雛子もだ。



 一回目の給食の日を首尾よく終え、帰宅した雛子は気分上々に畑で水を撒いていた。

「これで、毎週水曜日が楽しみだわ」

 雛子は思う「暫く続けて問題なければ、結果と共に兄に用法を提案してみよう」と。
 彼女なりに考えた、分校の給食の在り方に対する結論だった。

「あっ!そういえば、お父さんへの手紙」

 兄からの頼まれ事にかまけてしまい、父に近況を報せるという大事をすっかり忘れていた。

「とりあえず寝る前に書いて、明日の昼休みにでも出すしかないわね」

 雛子は水撒きを終えると、手を休める事なく直ちに晩の準備へと取り掛かった。

「え〜と……」

 夕食と入浴を手早く済ませ、寝間着姿になった雛子。ちゃぶ台の上に便箋を開げると、そのまま固まってしまった。「前略、お父さんへ」と書かいたっきり、そこから先へと筆が進まない。
 この村を訪れて僅かの期間しか経っていないが、善しにつけ悪しきにつけ、様々な出来事と出会した。
 しかし、それらを逐一、父に報せるのは何だか違うと彼女は思った。父が知りたいのは教師となった今の、雛子の心境だろう、と。

(ご無沙汰しております……)
 雛子は、便箋に想いを綴った。

 ──前略、お父さんへ

 ご無沙汰しております。
 此方では日々、新しい出来事に奔走するあまり、それ以外の物事が手付かずのまま、瞬く間にニ月が過ぎようとしています。
 教師となって、実際に子供達と触れ合いを持ち、彼等をとりまく環境の複雑さや、都市部と地方の学校に対する考えの違いに驚くばかりです。
 私はお父さんの様に、子供達の誰もが平等に教育を受けられる事を目指して、頑張っていく所存です。
 また連絡致します。

(こんなもんかなあ……)

 自分の書いた文をしげしげと見つめ、雛子は、もっと文字と親しくなっておくべきだったと後悔した。
 畏まっていながら、何とも文章に纏まりがない。これを読んだ父が、どの様な表情をするか容易に想像出来る。

(今さら仕方ないわ。国語で“甲”なんて貰った事ないし)

 唯、想いは文章に伝わっている。雛子は一人納得し、便箋を封筒に詰めて、

「これでよしっ。後は、購買所で切手を買って出すだけ」

 布かばんの中に仕舞った。“ようやく肩の荷が降りた”そんな表情で、ちゃぶ台を端に寄せて布団を敷くと、荷物の中に置いた長野日日新聞を出した。


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