そして、大人になる-6
「―……貴方がどんなにとんでもないことをして此処に帰ってきていたとしても、
貴方がそれを恐れていたとしても、
―貴方は変わってないよ。昔のまんま。
アルはアルでしょう。
生まれてきてから、ずっと。
貴方が生きてきた過去や、この5年間がどんなものかは知らないけど、そのひとつひとつが貴方を形成してきた過程なら…私はそれを愛しいと思うよ。
捻くれ者のアルを、私は此処で毎日、待ってたんだもの」
いやに饒舌な彼女。
腕の中でクスリと笑む声が聞こえた。
馬鹿ね、と呟く言葉も。
「……っ」
「……アル?」
フワリと離れようとする彼女の華奢な腕を引っ張り再び自分の胸に納める。
離れたらいなくなってしまいそうで。
この身体が離れた瞬間、全てが夢だったことになるのが怖くて。
知らぬうちに、目から熱く溢れる感情を、見られたくなくて。
取り返しのつかないことをしてきた。
後悔と自責の念。拭いたくなるほどの過去。
覚えていないほど昔から―…
出口のない裏社会で這いつくばって生きて来た俺の汚い生き方を、ヤヨは『愛しい』と言った。
過去に、無駄なことなどひとつもなかったのかもしれない。
あの日、この施設の近くに捨てられなかったら―……
俺は彼女に拾われることはなかっただろう。
俺の生きてきた道は、全てヤヨに繋がる為に在った道なのかもしれない。
深く、そう思えた。
「―………おかえりなさい、アル」
「…ただいま」
ふと、思い出し緩く身体を離す。
「ヤヨ…………」
「何?」
「あー……〜〜〜〜っ」
「何よ。勿体ぶって」
「……やっぱいい」
「何。気になる。言って」
「……やだ」
「言って」
「…や」
「言いなさい」
「〜〜〜あ、愛してる…」
「!!!…アルッ…」
「……から、また髪黒くしてくれ………」
「…告白下手」
「うっせェ」
「ふふ」
そう言って笑った彼女が儚く舞う桜の様で、俺は思わず………