終章・最後の贈り物-1
三人が結ばれた次の日の夜父親からメールが遥香のパソコンに届いた。内容は、色々あった菜摘の気分転換に旅行に行ったらどうか?という物だった。もしも行くなら知り合いの温泉旅館を紹介するとも書いてあった。菜摘はとっくの昔に離婚の事は吹っ切れていたのだが、そうとは知らない父親が自分なりに心配して考えたのだろう。三人は話し合って父親の好意に甘える事にした。遥香と輝は夏休みだったのでいつでも良かったので菜摘の休みに合わせる事にした。菜摘が休みになるお盆休み中は予約で一杯なのでは?と半分諦めていたのだが偶然キャンセルが出て空きがあったので予約を入れてもらった。
三人は二泊の予定で遥香が運転する車で温泉旅館へと向かった。その温泉地は海岸沿いにあり、三人は途中で車を止めて目の前に広がる景色に見とれていた。
遥香の車のカーナビが連れて行ってくれた旅館はホテルと間違うような立派な建物だった。三人は民宿のようなのを想像していたので戸惑ってしまった。
「ねぇ....本当にここで間違いないの?」
菜摘が不安そうに遥香に尋ねた。
「多分....間違いないと思うけど....」
遥香はそう言いながらもう一度父親から聞いた旅館の住所を入れた。やはりカーナビはこの場所を示した。
「確かめて来るね!」
遥香はそう言って車を降りて旅館に入って行った。
菜摘も輝も一言も話さず遥香の帰りを待っていた。
遥香はフロントで
「すみません....如月ですけど....」
そう声をかけた。
「如月様ですね!少々お待ち下さい!」
フロントマンが台帳を調べて
「如月様..三名様で御予約を承っておりますが?」
「あっ!あとの二人は車のほうに....」
「かしこまりました....只今係りの者が....」
「いえ私が呼んで来ます!」
一旦外に出ようとして再び戻って
「あのう....車はどこに....」
「係りの者がご案内します!」
車を駐車場に止めて旅館に戻って来た遥香を菜摘と輝は旅館の前で待っていた。
「暑いから中で待っていれば良かったのに....」
笑顔で言う遥香に
「そんなわけにはいかないでしょう....ねぇ輝?」
「うん....」
二人は目を見合わせて頷いた。二人は旅館の豪華さに気後れしているみたいだった。
「大丈夫よ!さぁ行きましょう!」
遥香は笑顔で旅館に入って行った。菜摘と輝は慌てて遥香の後を追った。
遥香達が入って行くと
「如月様お待ちしておりました。お部屋にご案内いたします。」
そう声をかけられた。
「待ちなさい!如月様は私がご案内しましょう!」
一人の男性が奥から出て来た。
その男性が遥香の荷物を受け取ろうとすると
「社長....如月様のお荷物は私が....」
遥香の荷物を持とうとした係りの者に
「如月様のお父様には昔大変お世話になったんだ!私にさせてくれ!」
そう言って遥香達の荷物を持とうとした。
「申し訳ありませんが自分の荷物は自分で運びますのでお気遣いは....」
その男性が社長と聞いて遥香も気後れしてしまった。
「こちらこそ申し訳ありません!かえってお気を遣わせたみたいで....」
そう言って頭を下げた。
「いえ.....」
遥香はそうとしか答えられなかった。
社長に案内され部屋に入ると窓を通して海の景観が広がった。その部屋には露天風呂があって朝には昇って来る太陽が真正面に見えると説明された。
「あのう....本当にあの予算で泊まっていいんですか?」
財布の中身が心配になった遥香が尋ねた。
「もちろんいいに決まってますよ!如月様のお子様ならタダでもいいくらいですけど、お父様が納得していただけなかったものでお食事のお代金だけをいただく事にしたわけです。7時頃にお食事をお持ちしますのでゆっくりとしていって下さい....」
そう言って社長は出て行った。